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「ただでさえ男3人の中に1人なんだからほんとはもっと気をつけなきゃだめなんだよ?」って彼に窘めるように言われて、私は「すいません」と俯いた。
私だってさっき少しだけ思ったんだ。いくら相手が深澤さんだとはいえ、部屋に入れちゃって大丈夫だったのかなって。
だけど、彼は全くなにひとつ気にしていないように手当てだけをしてくれていたから。私が変に意識することすらなんか恥ずかしいと思っていた。
………それに。
『…でも、私に手出すほど女の子には困ってないんじゃないですか?この前だって、』
「この前?」
私の言葉に彼が首を傾げた。
それを見ながら私の頭の中に浮かんだのは、数日前、彼が所謂朝帰りというやつをしてきた日のこと。
玄関でばったり出会してしまった彼からしたバニラの香りの香水の匂い。あれはどう考えたって女物の香水の匂いだった。
彼女のものなのか、それとも、…まあ、とりあえず私なんか相手にする必要がないくらいにはその辺は充実してるんじゃないかと。
そう言おうとしたけど、そんなことを聞くような間柄でもないなと、その言葉は喉の奥に引っ込めた。
『……いや、なんでもないです。それよりそろそろ離してください、』
「ん?あ、本気で忘れてたわ。ごめん笑」
深澤さんは少し笑うと、今度はあっさり私の手首から手を離して、「さて、じゃあ俺はそろそろ戻るかな」なんて呑気に言いながら身体を起こした。
私はまだ熱の残る手首を押さえながら、彼の背中に目線を送る。
………やっぱりね、ちょっと苦手なんだ。
掴めないというか、なにを考えているかわからないというか。
なんだか心臓が忙しいから。
彼のペースに慣れるまでには、もう少しかかりそう。
そんなことを思っていたら、扉の前で振り返った深澤さんが、「あ、あと」とこっちを振り返った。
「なんか困ったことあったらすぐ言ってね。俺 料理はできないからあれだけど、それ以外なら治るまでいろいろフォローするからさ」
『…ありがとうございます』
「あいつらにも言っとく」
そう言ってふにゃりと笑った深澤さんは軽く私の頭を撫でるとドアノブに手をかける。
「じゃあ、ーーーおやすみ」
『おやすみなさい』
それを合図にパタリとしまった扉。
私はふうっと息をついて、自分の手首を見つめる。
……さて、この当面使い物にならなそうな手で、これからどうしようか。
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こゆき(プロフ) - 彩花さん» 気がつきませんでした…!教えてくださってありがとうございます!とても助かりました…!! (2020年12月23日 0時) (レス) id: 7e9ebf3478 (このIDを非表示/違反報告)
こゆき(プロフ) - れいさん» ありがとうございます…!これからも楽しんでいただけるように更新頑張ろうと思います…! (2020年12月23日 0時) (レス) id: 7e9ebf3478 (このIDを非表示/違反報告)
こゆき(プロフ) - べぺさん» コメントくださっていたのに気づかなくてごめんなさい…!待っていてくださる方がいるというお言葉で、更新頑張れそうです!ありがとうございます…! (2020年12月23日 0時) (レス) id: 7e9ebf3478 (このIDを非表示/違反報告)
彩花(プロフ) - 何度もすみません!今日もう一度読み返してたら13ページ目のタイミングがタイミグになってました、!余計なお世話だったらすみません! (2020年12月22日 14時) (レス) id: 7fda05ffd5 (このIDを非表示/違反報告)
れい - なんとなーく更新待ってました…!再開してくれて本当に嬉しいです!これからも楽しんでいきます!! (2020年12月4日 1時) (レス) id: c0a052e646 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こゆき | 作成日時:2020年7月28日 15時