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「あ、それ持つよ。」
『いや、申し訳ないです、』
「いいから、いいから。」
深澤さんがそう言って、さりげなく私の持ってきていた大きいスーツケースを持ってくれる。
……ほう、優しい。
あれかな、これが大人の余裕とか言うやつかな。
お礼を言えば、「気にしないで」とサラッと返された。
「ここで話すのもなんだし、中入って。」
深澤さんに門の中へと誘導されて、敷地に足を踏み入れる。
…それにしても広い家だな、
家まで続く小道の脇には雑草と小さな花が咲いてる。
白、黄色、青。
ポツポツ見える小さな花を見ながら深澤さんの後を追うと、玄関の前で足が止まった。
「ほら翔太、お前も挨拶しろよ。」
相変わらず私を睨んでる、"翔太"と呼ばれたその人は腕を組んだまま私を見下ろす。
「……、」
『……、』
私と彼との間に流れる暫しの無言の空間。
相当嫌われてるな、これ。
『…阿部Aです。今日からお世話になります。』
待っていても埒が明かなそうだったから、こちらから話しかければ、
「……渡辺翔太。」
不満げに小さくそう呟いて、渡辺さん(?)は私から視線を逸らした。
「翔太、お前なぁ。その態度はないだろ、」
深澤さんがそう言っても「俺は女が入るのは嫌なの。」と聞く耳を持たない。
「いいじゃん、別に。野郎しかいなくてむさ苦しいから、俺は万々歳だけどね。」
「全然よくない。」
ぎゅうっと眉間にシワを寄せて、渡辺さんはそう吐き捨てると乱暴にドアを開けて家の中に入っていく。
そうか。そこまで私のこと嫌なのか。
……別に好かれようとは思ってないけど、さすがにちょっと落ち込む。
『…あの、なんかすいません。すぐ入居できるところがここしかなくて、』
「あぁ、気にしないで。あいつが変なだけだから。俺は大歓迎よ。」
そう言って軽く笑うと、深澤さんは閉まりかけたドアを手で押さえて「入って。」と家の中を顎で差す素振りを見せる。
……これが私の新しい家になるのか。
私はかなりの不安と少しの期待感を胸に抱えながら、今日から我が家となる白いこの家に、足を踏み入れた。
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こゆき(プロフ) - なべふかさん» コメントありがとうございます…!!そのように言っていただけて本当に嬉しいです泣 今後もよろしくお願いします!!体調、気を付けます! (2020年7月19日 23時) (レス) id: e5c6dc30ce (このIDを非表示/違反報告)
なべふか - コメント失礼します!!新しいStoryも素敵です*こゆきさんの言葉使いと言うんですかね…他には無い表現が読んでいて楽しいです、今後も更新頑張って下さい!くれぐれも体調には気を付けて下さい^^ (2020年7月18日 17時) (レス) id: 2b33477f89 (このIDを非表示/違反報告)
こゆき(プロフ) - まみさん» ありがとうございます…!!一応なんとなくのオチは決めてるんですけど、まだ迷ってるのでどうなるか楽しみにしていただけたら嬉しいです!!大人な深澤さん、わかりました…!たくさん盛り込みますね!今後もよろしくお願いします…! (2020年7月18日 13時) (レス) id: e5c6dc30ce (このIDを非表示/違反報告)
まみ(プロフ) - このしぇあはうす楽しすぎます!!全員良すぎて1人に絞れません泣。しかし深澤担としては、からかってくる大人な深澤さんが更に見たいです!しかしツンなしょっぴーもかわいいさっくんも非常に上手いです!!流石です!!更新楽しみにしてます! (2020年7月17日 22時) (レス) id: 5ad6cf8e80 (このIDを非表示/違反報告)
こゆき(プロフ) - (名前)ひなさん» コメント嬉しいです…!!私もちょっと悪な感じな翔太くんが好きなもんで笑 ありがとうございます、楽しんでいただけるよう更新頑張ります…!! (2020年7月3日 16時) (レス) id: e5c6dc30ce (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こゆき | 作成日時:2020年6月22日 21時