猫と邪神と舞踏会 (ページ7)

今日:6 hit、昨日:0 hit、合計:1,520 hit

6曲目ページ7

「そのあとの記憶はまだ思いだせないんだ。
まぁ、思い出したいわけじゃないんだけどね。」

そう言ったパルファンの顔は、窓からこぼれる夕日の光で赤く染まっていた。
そして一筋の涙が、パルファンの頬を濡らした。
パルファンはそれをぬぐい、

「さあ、もうこんな時間だ。夜ごはんにしよう。」

と言ってキッチンに入って行った。
あの青年は、それほど怖かっただろうか。
故郷も、住むところも、仲間も失い、1人でここまで来たのだ。
この年でこれほどの事を経験したのかと思うと、黒猫はなんとも言えない感情が胸に溢れた。
そんなことを考えながらしばらく待っていると、とてもいいにおいがこちらの部屋に漂ってきた。
それから少し経つと、パルファンがキッチンからたくさんのお皿を運んできた。
焼きたての匂いがふわっと香る焦げ目のついたパンと、湯気が立ち上っている優しい色をしたコーンスープ、色鮮やかなサラダにとろとろのチーズがかかったハンバーグのいいにおいが鼻先をくすぐる。

「君はおなかを壊しちゃうかもしれないからこっちだね。」

そう言ってパルファンが黒猫の前に置いたのは、牛乳の入った大皿と少し身をほぐした魚の切り身だった。
黒猫は、じろっとパルファンを見たが、気付かなかったようだ。
人間に戻ったらたらふくうまいものを食ってやる。
黒猫は仕方なく目の前の皿に手をつけた。
...うまい。
バカにしていたが、この魚、うまい。
黒猫がびっくりしていると、パルファンが言った。

｢この魚は市場で買ってきたんだ。
この町、近くに海があるんだ。
すごいよねぇ。
山の幸も海の幸も取れるんだから。
ニュアージュ村は木の実とか肉しか食べれなかったからなー。｣

少し悲しそうな目をしていた。
黒猫がじっと見ているのに気がつくと、

｢あ、早く冷めないうちにご飯食べなきゃ。｣

と言って、ぎこちなく口にスープを運ぶ。
しかしそのうち彼の手は止まった。
そして、嗚咽が漏れてきた。