32話 ページ34
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『…よし……ロロノア・ゾロ、こっち向いてください』
「あ？」
ルフィ達の会話を聞きながら一人でやっていたのは、治療道具の準備だった。
といっても血を拭くためのコットンだけだけど。
私自身は普段力技ばかり使うからたまにヘマしたりして怪我をするからいろんな治療道具が必要だけど、私以外の人ってなるとそんなものはいらない。
ただ、私の手があればいい。
『……めぐれ、めぐれ、命よ、まわれ。水よ、草木よ、空よ、大地よ。どうか私にお力を、お恵みください……』
静かに静かに歌う。
大地に祈るように。
歌い終わり、ふぅと息を静かに吐き出した私は血を止めるために当てておいたガーゼをゆっくり外す。
『…うん、終わり。もういいですよ』
傷はきれいさっぱり消えていた。
治療道具を片付け、ロロノア・ゾロへ視線をうつす。
と、こちらが驚いてしまうほどに、これでもかというくらい目を見開いた状態のロロノア・ゾロと目が合った。
「お、お前…」
その表情を見た途端、一つの不安が頭を過った。
私はすぐにこうやって何も考えずに行動に起こすくせがある。
この能力が普通ではないことを忘れて。
『あー……、……すみません、気持ち悪かったですよね…』
「、あ、いや、それはねェ。ただ、ちょっと驚いただけだ、すげェなって」
その言葉に今度は私が驚く番だった。
意外にも、ロロノア・ゾロの口から出たのは否定的な言葉ではなかった。
でも…そうだよね。
今回一緒に戦って、ロロノア・ゾロを見てわかったけれどこの人は見た目やそういうもので判断したりする人ではない。
それが、今の私にはとても嬉しいことだった。
『ありがとうございます…』
思わず笑みが零れそうになったけれど、ぐっと堪える。
私はルフィたち意外には笑顔を向けないって、そう決めたから。ずっとずっと、昔に。
心を開けない。怖いから。
もうずっとずっと、昔に……私の心は閉じてしまった。
もう、意味がないっていわれるのは嫌だから。
否定されるのは嫌だから。
『でも、死ななくてよかったです、本当に』
だけど、心を開かなくても、開けなくても、たとえ私が否定されようとも、私が大切にしたいと思った人にはせめて…幸せを願うくらい…許されますよね？
せめて、それだけ。
そんなことを考えていた私は、ロロノア・ゾロが暫くこちらを眺めていたことには全く気がついていなかったのだった。
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作者名：瀬成 | 作成日時：2024年1月5日 13時
