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「そこで頼みたいんだよ、Aくんたちに。このままあの中に籠られたらこっちも困る。提供する食事には手を付けるから、餓死することはまずないしね」
「分かりました。引き受けますよ」
冷たい鉄格子を掴む。繭の中に隠れて見えない異能力者に俺は話しかけた。
「俺の名前はA。君と同じ異能力者たちの世話役をしているんだ。また仲間たちと来るから、じゃあな」
返事は返ってこない。そもそも期待なんてしていなかったのだが、少し寂しい。いつか彼も仲間になることを考えると、わくわくした。
「ありがとうね」
「いいえ、それでは」
任務の承諾書を書き終え、城を後にする。青空はすっかり茜色に染まっていた。長らく留守にしてしまったが大丈夫だろうか。
新しく来てくれたきんときがストッパー役になって調和が保たれているのだが、彼も彼でその気になったら本気でふざけ始める。
不安の種が芽を出さなければいいのだが。
「ただいま」
家の中に入ると、美味しそうな匂いが鼻をくすぐった。台所に顔を出してみると、エプロンを付けて料理をしているきりやんがいた。
「おかえり、A」
「きりやんの料理とかいつぶりかな。身体の調子は大丈夫？」
「まぁね。ちょっと寝すぎた」
「ここ最近はずっと寝てたからな、お前」
きりやんが作ってくれていたのはカレーだった。お玉一杯分の牛乳を隠し味に加えてかき混ぜている。他の皆は裏の森で何かしているらしい。
「書庫で何かあった？浮かない顔してるけど」
「え、そう？」
「なかむと一緒でAは分かりやすいから」
そうなのか。自分の頬を触るが何も分からない。無意識にそんな顔をしてしまっていたのなら直さなければ。
棚の引き出しから食器を取り出してテーブルに並べる。
「次の任務だ。詳細は皆が揃ってからにするよ」
任務と聞いた瞬間、きりやんは嫌そうに表情を歪ませた。今回は戦闘にならなそうだが、本当に自分たちにできるのか不安になった。
「そういえば、きりやん。顔の落書きどうやって落としたの？」
外出する前、四人の落書きによって悲惨な顔になっていた彼を思い出す。今のきりやんの顔はいつも通りに戻っていた。
「めっちゃ擦った。落とすのマジで大変だったんだからな！！」
「俺じゃなくてあいつらに言え」
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作者名：葡萄。 | 作成日時：2022年6月29日 22時
