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「来てくれるかな？研究施設に」
「研究って…何をしているんですか」
「変なことはしないよ。どちらかといえば、被害を被っているのは俺らの方。特殊部隊入隊にあたって異能の検査をしてたんだけど」
コツコツと彼の革靴の音が響く。冷たいコンクリートで造られた階段を何段と降りていった。その先にあるものを俺は知らないし、見たことも聞いたこともない。
「その時に何かの拍子で過去を思い出したのか、異能が暴走しちゃってね。あれからかれこれ二ヶ月が経って今に至る」
「二ヶ月も放置してたんですか…」
「俺も俺で頑張ったんだよ。でもね、説得力がなくて」
「ここだよ」ぴくとさんが足を止めた先にあるのは、頑丈そうな鉄扉だった。その扉が開かれると、中の冷たい空気がこちらに流れ込んできた。じめじめとした、不快感のあるものだった。
地下研究施設。そこでは主に異能の他にも、薬や人体の研究が行われているらしい。一見、どこにでもあるような研究室だが、次にぴくとさんに連れていかれた場所は異様だった。
「糸の塊？ここって、異能の検査室じゃ…」
「だから言ったでしょ。異能力者は検査中に暴走した。そして俺たちが近寄れない様に糸をそこら中に張り巡らせた」
鉄格子の向こう側にあったのは、蚕のような白い糸の繭だった。
「見てわかる通り、彼は糸の異能力者。名前は分からない。どうやら記憶喪失になっているみたいだったから」
「どこで異能力者を発見したんですか」
発見された場所は、国境沿いの小さな村だったそうだ。ぴくとさんは苦虫を噛み潰したような顔つきで言った。
その村では、生贄を捧げるという昔からのしきたりがあったらしい。生贄になるのは五歳ほどの幼い子供が大半らしいが、一度だけ十八くらいの娘が生贄になったことがあるらしい。
「その娘はこの異能力者の姉だったんだ。そして俺はこの話を村の長寿から聞いた。異能力者がいると通報したのもそのご老人だったよ」
「今まで気づかれなかったわけか」
「うん。この異能力者は幼少期、病弱らしくて生贄に選ばれたんだ。それを姉が庇って死んだ。その日以来から彼は病弱な体質ではなくなった。恐らく、異能の発現と同時に身体が丈夫になったんだと思う」
異能力は生まれ持っている人もいれば、突然発現する人もいる。前者はぶるーく、後者はぴくとさんやなかむ、きりやんだ。
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作者名：葡萄。 | 作成日時：2022年6月29日 22時
