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階段を急いで駆け下り、近くにいたきりやんの拘束を解く。色彩豊かな糸を裁ち切り、自由になった彼は異能の発動を試みようとした。
しかし、きりやんが発動のために手を伸ばすと、それを狙って糸がまた彼に絡みつく。この無限に続く攻防には皆が嫌気を差していた。
持ってきていた短剣でシャークん、きんとき、ぶるーくと次々に糸を切り落としていく。
「なかむ！」
「ちょっと静かにして」
異様なことになかむだけが紫色の糸に捕まっていた。拘束を解こうとすると、彼に集中しているからと動きを止められる。
鉄格子の隙間から冷気が漏れ出す。その後すぐに、糸の隙間から鋭利な氷塊が飛び出してきた。氷塊を自在に操るなかむは、そのまま自身を縛っている糸を断ち切った。
「切っても、また振り出しに戻るだけ。それなら、一瞬で全部を消せるような事をしなきゃ、異能力者の姿は見えないよ！」
いつもより一段と低い彼の声が鼓膜を揺らした。彼の意見には同意だが、この大量の糸を一瞬で無に返す術なんて思いつかなかった。
せめて、炎系統の異能力者がここに入れば。この糸を燃やし、火の中に閉じ込めた異能力者をきんときが救出する。そんな捕獲劇を繰り広げる事ができたというのに。
「いや、異能じゃなくても良い！」
「A、何か思いついたの？」
小さく首を傾げるなかむに俺は自信満々に頷いた。
「シャケ！頼みがある！」
名前を呼ぶと、シャークんはすぐさまこちらへ駆けつけた。
「俺の脚力を最大まで上げろ！」
「はあ？！それ、お前の足が耐えられるか分かんねぇぞ！」
実際、俺たちはシャークんの最大威力をまだ見たことがない。何の保証もないのに大丈夫だから、と言い押す。最終的にシャークんの方が折れ、俺に異能を使った。
両足に緑色の稲妻が走る。いつもは感じないビリビリとした痺れが今日はあった。
「いいか！俺が戻って来るまで絶対に捕まるなよ！」
一歩踏み出すと、極限まで引き上げられた足の力で一瞬にして遠くへ行く。異能検査室を勢いよく飛び出し、辺りを見渡す。
「あの薬品棚…」
異能の勢いをすっかり忘れて思わず走り出す。勢い余ってお目当ての薬品棚に顔面から衝突してしまい、床に尻もちをついた。
ぶつかった衝撃で棚からいくつか瓶が落ちて割れる。その中でも床に赤色の粉末を散らばせた透明な小瓶に目が止まった。
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作者名：葡萄。 | 作成日時：2022年6月29日 22時
