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「話したくないなら、無理に聞こうとしなくて良くない？」
「それだと話が進まないじゃん」
「十分に進んだと思うよ。お互い過去のことは大方知ってるけど、全てを知っている訳じゃない。僕だって過去のことはなるべく話したくないし」
「じゃあ、きりやんは僕たちに過去を全て話してるの？」ぶるーくの怒涛の反論に気押されたきりやんが折れて、そこで話は終わったようだ。
張り詰めた空気にどうすればいいのか分からないでいると、突然きんときが声を上げながら斜めに背伸びをした。
「あーあ、なんか聞いてるだけで疲れた」
それだけを言い残した彼は立ち上がり、台所に足を運ぶ。冷蔵庫を開けてその中身を確認した彼は、爽やかな笑顔で笑って見せた。
「空っぽじゃん！これじゃあ、料理できないよ？」
「あ、ごめん。きりやんが作ってくれたカレーが残ってるから買い出しに行かなかったんだ」
軽い足取りでシャークんもきんときの元へ行き、彼と同じように冷蔵庫を覗いたシャークんは中の殺風景さに微笑んでいた。
「本当に空っぽだ。ここに集まる前の、俺らみたいに」
お互い過去のことについては粗方知っているつもりだった。否、俺ときんときを除いた四人は。
普通の人間ではない彼らは、窮屈な思いをして今まで生活していたことだろう。どれだけ悲惨な過去だったのか何も知らないまま彼らと過ごして数年。
まだまだ未知数なことだらけなのはお互い様なのかもしれない。
異能を持っていない俺も、彼らにとっては謎の対象の一つであるのだろう。
『覚えていないことは悪いことじゃない。これから俺と楽しい思い出を作っていけばいいんだよ』
幼少期の記憶は何一つ覚えていない。覚えているのは物心が着いた頃からの日々だけ。空っぽだ。俺の記憶の引き出しの中も、あの冷蔵庫と同じように。
「笑えよ、お前ら。初めて会った時、不安だった俺にそうしてくれたみたいにさ」
ここで亀裂を生んでいる場合ではない。
シャークんが向けた笑顔に三人はどこか照れくさそうにしていた。俺ときんときは二人で顔を合わせ、自分たちの場違い感を飽和させた。
よかったね
きんときの口が動く。俺が勢いよく親指をグッと立てると、何も知らない周りから変な目で見られ、先程とは一味違った気まずさを感じることとなった。
これもまたいい思い出、そう言えば聞こえは良いだろう。空っぽの記憶の引き出しがまた一つ満たされた。
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作者名：葡萄。 | 作成日時：2022年6月29日 22時
