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チョキンッと糸が切れる。床に散らばる糸屑に段々と嫌気が差し始めた頃だった。
ぶつぶつと文句を言いながら手を動かすきりやんを横目に、俺は糸を切り進めていた。切っても切っても、糸がまた俺たちの行く手を阻む。
糸の繭から無限に伸びてくるため、気味が悪い。
「こんなことしてたら日が暮れるわ」
シャークんの嘲笑に皆が頷いたその時。
他の糸とは何かが違う。明らかに誰かによって操作されている紫の糸がなかむの足に絡みついた。
「え？あ！！」
足が引っ張られたなかむは尻もちをつき、そのまま繭の方へとズルズル引きずられていく。近くにいたぶるーくが咄嗟に腰に装備していたナイフで紫の糸を断ち切った。
「なかむ、大丈夫か？！」
「ぶるーくのおかげで何とか…それより、この紫の糸は」
するりと解けた糸を摘んで、彼は首を傾げた。
「色の違いで何か意味があるのかもしれない」
顎に手を当てて考え込んでいるA。更に謎が増えた異能力者からは、俺たちの目の前に出てくるような気配を感じ取れなかった。
過去の記憶を思い出して暴走した。その事実が本当なら、正直言って説得は厳しいものになるだろう。
「今日はもう止めた方がいいのかもしれない。また、ぴくとさんと俺で色々と調べてみるよ」
「あんまり無理しないでね」
「分かってる」
ふっと笑った彼の目に俺たちの姿は映っていなかった。
帰り道、ぴくとさんに報告をしに行くと言ったAとは別れて五人で歩いてきた道を戻る。暖かな陽の光に感動しているぶるーくを差し置いて、シャークんは水溜まりを踏んずけた。
水飛沫が上がり、それがシャークんの靴を汚す。「やっと出れた」ほっと胸をなでおろした彼を疑問に思っていると、なかむがこっそり教えてくれた。
「あいつはきんときと同じで、誰かから異能を継承した身なの。継承するための工程があってね。それがかなり残酷で。しかも、継承はあの地下研究施設で行われたんだ」
「継承の工程って、俺の場合とは違うの？」
歩き出そうとしたなかむの足がピタリと止まる。こちらを振り返る彼は子どものように無邪気に笑った後、静かに人差し指を唇に添えた。
「それは、きんときにしか分からないことじゃないかな？」
暗闇の中、強く握り締めた斧。壁にべったりと付着した鮮血。無惨な姿になって横たわる死体。
手に残る生々しい感触と口に広がる血の味を思い出して、俺は後方で佇んでいるシャークんを見つめた。
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作者名：葡萄。 | 作成日時：2022年6月29日 22時
