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パールは壁に飾られた写真を見て、頬を少しだけ緩ませた。破片を白布で包み込み、大切な物のように優しく持ち上げる。
「特殊部隊の彼らにとっても、A様は太陽のような方なのでしょうね。A様が世話役になる前、彼らはいつも作り物のような笑顔を浮かべていました」
「俺は何もしてない。あいつらはいつの間にか強くなってて、遠くに行っちゃうんだよ」
Aは布団に包まり、段々と暖かくなる自分の体温を感じながら目を瞑った。
「でしたら、A様は太陽ではなく、月なのですね」
「月？」
「形や数字、目に見えるものだけが全てではありません。表立って何かを成し遂げる人がいるのは、裏で必ず誰かが支えているからなのですよ」
彼女が布団を捲ると、そこにはシーツに顔を埋める彼の姿があった。そのおかしな様子にくすりと笑みを零し、目を細める。
「月は太陽がいないと輝けないのです」
それだけを言い残すと、パールはトレイを持って部屋を後にした。
自分以外誰もいない部屋の中は、とても静かだった。あの日常の騒がしさが恋しくなり、自然と涙が浮かぶ。
ちゃんと笑っているだろうか。それだけが心配だった。
「抜け出さなきゃ」
布団を放り投げて窓を全開にし、そこから飛び降りを試みるが、足が窓枠に届くことは無かった。鎖が届くのはここまでで限界だった。
会いたいと思うほどに苦しくなる。自分がどれだけ彼らに助けられていたのか身に染みて解った。
窓の外を見ると、小さな小鳥が飛んでいた。鳥籠に囚われた今の彼には何もすることができない。
もしも、風が俺を皆の所へ運んでくれたら。
そう願っても、異能は発動しなかった。
パタン、とA部屋のドアを閉め、そこに背を預けてズルズルと床に落ちていったパールは、ふっと息を吐いた。
「国王様、いらしていたのですか」
彼女が下を向いたまま、気配のする方へ声を飛ばす。靴と床のカーペットが擦れる音が聞こえ、立派な革靴が彼女の目の前で立ち止まった。
「Aをちゃんと拘束したかい？」
「完了致しました。ですが、本当にこれで良かったのでしょうか」
「はっはっは、君は何も心配しなくていい」
国王はパールの耳元に顔を寄せ、囁いた。
「君は記憶喪失だからね。私の指示に従っていればいいのだよ」
パールは服の埃を払いながら、静かに立ち上がった。
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作者名：葡萄。 | 作成日時：2023年4月5日 17時
