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彼女の言葉が終わると同時に、Aの両足首に光の鎖のような物が縛り付けられていた。鎖をたどってみると、それはベッドの足に繋がっている。
この部屋でなら自由に動き回れるほどの長さだった。その鎖に触れようとするが、スカッと手に触れることは無かった。
「なっ…？！」
「私だけしか解くことはできません。鎖から逃れることは不可能でございます」
「君も異能力者なのか！」
「いいえ」
パールは首を振る。異能力者ではないなら、一体何者なのか。Aの苦い表情に察して、彼女は自らその能力に関して話し始めた。
「母はシスター、父は神官。私の生まれた場所は教会です。国王様曰く、私はちょっとした神術を使えるのだそうです」
「これが神術…」
「左様でございます。神術は異能よりも威力が格段に低く、そもそも殺傷能力を持ち合わせていません。民の傷みを癒し、自然の摂理を保つために神が授けたものですから。
神術を使用できる者は私を含め千人ほど存在しています。ですので、異能力者よりも価値はありません」
その冷たい声色の奥に光は無かった。虚ろな薄灰色の瞳が揺れている。
「そういうことですので、この部屋で大人しくしていてくださ…」
パールが言い終えようとしたと同時に、Aはティーカップを床に叩きつけた。甲高い音と共に弾け飛ぶ欠片は、少し離れた場所に立つ彼女の足元にまで滑っていく。
「ふざけるな」
Aの一段と低い声が地を這う。パールは彼の変貌に大きく目を見開いた。長い前髪の隙間からギラリと光る赤目は獲物を狙う蛇のようである。
「俺は異能力者の世話役だ。あいつらの世話をしなきゃいけない」
「国王様から聞いていないのですか？本来であれば、彼らはもう自立して生活をせねばならない歳。いつまでもA様に頼っていては」
「あー…そうかよ。なら、もう俺はただの軍人じゃなくて、異能力者だ。特殊部隊に配属されるはずだろ？」
「A様はぴくと様の代わり。今後、国王様の側近の役目を担われます」
Aは言い返す気力を失くし、大きな溜息を吐き出しながらベッドに仰向けになった。左腕で目を押さえ、暗闇の中に囚われる。
飛び散った破片を丁寧に集め始めたパールは、小さな声を漏らした。破片で指を切ってしまったようで、右手の人差し指に赤い血が滲んでいた。
「…ぴくと様は、まるで太陽のようなお方でした」
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作者名：葡萄。 | 作成日時：2023年4月5日 17時
