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赤い糸に身体を締められる。糸は王のところまで伸びていたが、最悪にも今のスマイルの視界には俺しかいないようだ。標的が俺だけに絞られて、糸はさらにこちらに伸びてくる。
「煙のせいだな。あれは何か答えろ」
「随分と冷静じゃないか。あの煙には麻薬の成分が含まれている。これは私独自の開発でね、人体実験を通してやっと完成した代物さ」
「異能の誘引剤ってとこか…」
「半分だけ正解だ」
俺の異能は暴発はあるが、暴走はしない。力の底上げは、異能の効果を重ねれば重ねるほど強くなるが、異能をかけすぎるといわゆるオーバーヒートを起こしてしまう。
その結果、さっきみたいに異能の効果が全て消える。
「ハハハ！！どうだい、仲間に殺される気持ちは？！」
勝利を確信した王が高らかに声を上げる。こんなに大きな物音を立てたのだ。さすがに誰かは気づく。誰かが来てくれると俺は信じている。
「スマイル！シャークん！」
突如、巨大な水の龍が現れ、王に突進した。壁に背中を叩きつけられた奴は、不意をつかれた顔をしている。
「うわ、何この匂い…って、スマイル何してんの？！それ王じゃなくてシャークんだから！正気に戻れ！」
「匂いのせいだ！異能を誘引する効果がある！」
「スマイル！」ともう一度きんときは名前を呼び、彼の頭を叩く。その衝撃で自我が戻ったのか、糸の力が緩んだ。
「…あれ、俺」
「シャケ、後ろ！」
きんときの声に後ろを振り返ると、濡れた姿で剣をこちらに振りかざそうとしている王がいた。毒でも塗ってあるのか、剣の先端が刃と違う輝き方をしている。
「君たちは私を殺せない。なぜなら私が"王"だからだ」
きんときに攻撃を仕掛けてもらおうと試みるが、彼もすぐ匂いにやられてしまったようだ。水龍がみるみるうちに巨大化していく。
「水龍！落ち着け！」
彼の意思と反対に水龍は大きな雄叫びを上げると、王を無視して俺らだけを飲み込み、窓の外へと飛び出した。
窓ガラスが割れ、破片が水龍の背中に浮かぶ。王は終始不気味な笑みを浮かべていた。遠ざかっていく城。空中で水龍の身体の中を暴れ回る。水龍は天高くまで上っていく。
「落ち着けって言ってんだろ！！」
水龍の首元までたどり着いたきんときは水の中から顔を出す。そして、右手を振り上げて水龍の目玉を思い切り殴った。
形を失った水は、重力に逆らうことなく真っ逆さまに落ちていく。
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作者名：葡萄。 | 作成日時：2023年4月5日 17時
