▽ ページ45
・
目を覚ますと、見慣れた天井があった。小さな呻き声を漏らしながら寝返りを打つと、端麗な顔がこちらを覗き込んでいた。あまりの近さに驚き、パールは立ち上がった。
そこで床に浮かんでいる光の球体に気づき、自分がその上に寝ていたのだと悟る。
「メイドさんと戦えると思ったのに、急に寝ちゃったから。おかげで怪我ひとつせずに探索できたけど。それにしても、びっくりしたなぁ」
青薔薇が君にも出るなんて。
その言葉にパールはぶるーくがらっだぁの異能のことを知っているのだと知った。彼女は普段動かさない頬を少しだけ上げて、優しく微笑む。
「私から戦いをふっかけておいてすみませんが、休戦共闘しませんか？」
「ふーん、どんな心変わりで？」
「ぶるーく様はらっだぁ様の異能を知っていたのですから、ある程度ご理解はあるのでしょう？私はずっと忘れていたことを思い出し、本当にすべきことに気づいたのです」
皇族、シュヴァルツ一族を許してはいけません。
猫のように鋭く光る彼女の目に、ぶるーくは怯んだ。先程までは感じなかった威圧。目覚めてからのメイドは、どこか人が変わったように感じるのだ。
「あなた方と共闘することで私は王に復讐できる。あなた方は私と共闘することで城の内部情報まで入手できる。これぞまさに、win-winな関係というものです」
「…今決めることはできない」
「そうですか。いつでもお待ちしてますよ」
「口裏は合わせてくれない？君は何も見なかった。寝てて騒動に気づかなかった」
「ええ、かしこまりました」
「最後にもう一度聞くけど、Aくんは？」
この場において嘘はつかないだろうと思った彼は、もう一度彼女に聞く。彼女は窓の外の遠くを見て答えた。
「今はここにいません。お伝えした通りです」
「元気にしてる？僕たちのこと忘れてない？」
「忘れていませんよ」
「……そっか」
ぶるーくは彼女の目を見た。濁りのない光に満ちた目だった。最初見た時とは違う、頼りになる目。自信に溢れる目。初めて会った時のなかむを思い出させる。
「先ほどの無礼をお許しください」
「ううん、別に。こっち側になってくれて良かったし。それじゃ、またね」
ローブを翻して走り出す。城内を走り回っているであろう仲間たちにいち早く伝えるために。手首の傷口から出る血が、ぽたぽたと赤色のカーペットに染みる。
大好きな仲間のためなら、傷なんて痛くない。
・
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 201人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：葡萄。 | 作成日時：2023年4月5日 17時
