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あの時、私があなたの死を止めていれば。
私があなたより強かったら。
あなたは今も笑って生きていて、私を助けに来てくれたのでしょうか。
「誰なのか答えなさい！」
「先に僕の質問に答えてもらおっかなぁ」
耳元で放たれる声には、聞き覚えがあった。
「Aくんはどこにいる」
「目的はA様なのですね。彼ならここにはいらっしゃいませんよ。今は任務でスティールへと出かけています」
それは本当かなぁ？
フワフワとしたどこか気の抜けた声は、底知れぬ圧を裏に隠していた。目の前にナイフをちらつかされるパールは、ぐっと息を飲む。
「本当です」
あぁ、今すぐにでも助けに来て欲しい。
彼女の首筋に青い光が現れる。それは次第に蔦へと形を変えて彼女の頬に達すると、見事な青薔薇を咲かせた。それを目視したぶるーくは、突然のことに腕を放す。
「質問変えるよ、お嬢さんこそ何者？！」
心の奥底で誰かが叫んでいる。守られてばかりの俺じゃない、と。俺はお前らを守るために戦うのだ、と。
その意思は誰のものか、パールには分からない。ただ自分の中で呻くこの声が彼女自身を助けてくれるのだと確信を持てた。
「私は、A様の専属メイドです」
彼女の右手に光が集まる。
彼女の脳裏を過ぎるのは、見たことがないはずの男の背中。返り血の付いた赤いマフラーを風になびかせ、青い髪の毛を掻き乱しながらこちらに笑いかける姿。
目から溢れ出る涙を拭う。
「メイドさん、もしかして異能力者？」
「そういうあなたは特殊部隊の方ですね。聞き覚えのある声だと思いましたが、ぶるーく様でしたか」
「へぇ…僕のこと知ってるの？」
「なかむ様のお世話をしていた時期がありましたので。幼い頃ですが、何度か顔を合わせています」
「僕たちのこと知ってるなら尚更」
Aくんを返してよ！！
ぶるーくが自身の手首にナイフを突き刺す。その深い傷口からは血の棘が何本も伸びパールに先端を向ける。
神術は民を守るためのもの。殺傷能力はない。じゃあどうするべきなのか。
＿＿＿＿神術って、何。
血の棘はパールを串刺しにしようとものすごい速さで伸びてくる。死の危険が迫ってくる。
棘が彼女の心臓を貫こうとしたその時、眩い光が攻撃を弾いた。ぶるーくが苦笑いで目の前の駄々ならぬ威圧を発するメイドを見つめる。
彼女の心臓の前は光の球が浮いており、それが血の棘から彼女を守っていた。
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作者名：葡萄。 | 作成日時：2023年4月5日 17時
