▽ ページ5
・
「忘れられた…？」
「おや、知らないのかね」
国王は何度か瞬きをする。自身の顎髭を触りながら俺の隣に彼は腰を下ろす。そして懐かしむように目を細めながら話し始めた。
「まだ私の父が国王だった時の話だ。その頃から異能力者の部隊があってね。恐らく、当時が全盛期だったな」
今から約十年前。ぴくとさんを含めた六人が今で言う特殊部隊に所属していた。彼らは歴代の中でも群を抜いており、最強に最も近い異能を持ち合わせていた。
しかし、その六人の内一人が脱走を試みる。その際に異能力者六人に関する記憶を全ての人間から忘れさせた。
同時に異能力者と関わりが強かった前国王、その側近や専属メイドの存在も人々の記憶から消してしまったのだ。
「それから忘れられた十五人と我々は呼ぶようになった。私の父上も突然消えてしまってね、本当に驚いたよ」
記憶を操る異能力者。それに思い当たる人物を頭の中で思い浮かべる。そういえば、国から逃げてきたとか言ってたような。
「ぴくとの異能は強い。だから絶やしたくなかったのだ。君が継承してくれて本当に良かった」
愉快に笑う国王はゆっくりと立ち上がり、王室へとお戻りになられる。俺はその背中が見えなくなるまで見守り、後は部屋に帰った。
生前、ぴくとさんの自室だったこの部屋は、彼が生きていた頃のまま保たれていた。けれど、今朝俺がめちゃくちゃにしてしまったので大変申し訳なく感じている。
あのメイドが後片付けをしてくれたのだろう。壁はまだ損傷したままだったが、割れたガラスや鏡は新しい物に取り替えられていた。
散らかっていた書類はどこかに持っていかれており、バラバラに崩れていた本の山も棚の中へと戻されていた。
「…あいつら、どうしてるかな」
城の後ろにある裏山。あの山の向こう側に特殊部隊の本基地兼住居がある。
一ヶ月も不在になってしまったが大丈夫だろうか。ちゃんとご飯を食べているのか、元気にやっているのか。
聞いて欲しい話がたくさんある。教えて欲しいことが数え切れないほどある。
「お疲れ様です、A様。間食をお持ちしましょうか」
「あ、お願いします。それと俺、今から特殊部隊のところに行きたいんですけど」
メイドは静かに首を横に振った。
「それはできません」
「え？」
少々お待ちください、とメイドはスカートの裾を上品に摘みお辞儀をした。
・
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 201人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：葡萄。 | 作成日時：2023年4月5日 17時
