【WT】鮮紅の花束 Ⅴ (ページ38)

今日:17 hit、昨日:26 hit、合計:10,961 hit

第五十六話「光」ページ38

・

心が氷のように冷たくなっていくのを感じた。

なぜかは分からない。きっと、今まで温かいと思っていたものから熱を感じられなくなったのだと思う。

熱を持たない炎の中を一人ぽつんと佇んでいるような、不思議な気持ちだった。

「ねぇ、きりやん。お願いがあるんだけどさ」

「ん？」

「盗聴器、作ってよ。それで俺の通信機に繋いで欲しい」

「は…？待って、盗聴器？！」

「あーっと、大きさはめっちゃ小さくね。本当に豆粒くらいの感じで」

なかむからの唐突な頼み事に、きりやんは目を丸くさせた。彼が機械に手を出し始めたのは本当に最近のことだったので、なかむの頼みは断ろうかと最初は思った。

盗聴器を仮に作れたとして、それを何の目的で使うのか。

聞こうと思えば聞くことができた。けれど、行動に移す勇気が出なかった。

圧を感じた。

最近のなかむがまた変になってきた事には勘づいていた。というかAがいなくなるといつも変になる。

「なかむ、Aのことはもう」

諦めろ。忘れろ。

その言葉をきりやんは言うことができなかった。国王との約束は、自分だって少しだけど信じていた。でも今は、違う。他の奴らはとっくに諦めかけている。

なのにどうしてお前は、お前だけは。

「あぁ、いいよ。作ってやる」

きりやんはなかむの頼みを引き受けた。

「ありがとう」

そして彼は寝る間も惜しんで作成に取り組んだ。初めてのことだらけで上手くいかなかった。

やっとできたと思ったが、すぐに音質が悪くなって火花を散らしたこともあった。

失敗を重ねてできたのは、二つの極小の盗聴器。自分の目の下に濃い隈ができていることにきりやんは気づいていなかった。