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「ぺいんと！！」
ぺいんとを押し倒す。死神が振り上げたダガーは俺の義手の隙間に刺さった。死神はすぐに後退してこちらとの距離を取る。
俺と同じように右腕が不自由になっている彼の動きは鈍っている。
「これは…さすがの僕でも負けてしまいそうですね」
痙攣する左腕の周りを風が旋回し始める。苦しくなる心臓が、異能の暴走を予期していた。ここで暴走すれば敵を間違いなく殺せるだろうが、この二人を巻き込むわけにはいかない。
どうにかして力を抑えないと行けないのに、心の奥でどよめく感情が黙ってくれない。
長い前髪の下に隠れた、ぺいんとの目がギラリと光る。橙色に発光する目が、白くなっていく赤髪の姿を捉えていた。
「巻き起こせ！」
左腕に渦を巻いていた旋風を死神に向けて放つ。関節の外れた奴の右腕が大きく煽られるだけで、敵は不気味に口角を上げていた。
俺の異能じゃ、殺傷能力がない。
「A！これ使え！！」
ぺいんとが赤髪の胸部に刺さっていたナイフを抜き取り、俺の足元に転がす。それをすぐに拾い上げ、こちらに向かって大きくダガーを振るう死神の攻撃を受け流した。
右腕の服の袖が引き裂かれ、金属の姿が露になる。
「義手…だから腕を撃ったのに動けるのか！」
ひらりと軽い身のこなしで、舞うようにナイフを避ける死神。その動きに俺も彼に踊らされているような気がしてならなかった。
ダガーが左頬を掠め、じんじんとした地味な痛みと熱が帯びる。
異能の暴走を起こせば勝てる。
あいつを殺せる。
「ふっとべ！！」
台風並みの暴風が、死神の身体を先ほど開けた館の穴から外へ吹き飛ばした。真上に浮かぶ満月の光を反射するぎょっと見開かれたアメジストの目の中に、闇がうごめいている。
俺の足元から発生した風が瓦礫を持ち上げる。俺が行け、と心の中で叫ぶと、風は瓦礫と共に奴に突進していく。
いまだに暴れ続けるこの感情に妥協するくらいなら。あの人の感情に溺れるくらいなら。
俺の身体はどうなってもいい。どうせ代償のせいで死ぬことは許されないのだから。だから今は、誰かを、人を守りたいというこの心に芽生えた正義感を。
暴風に乗せて奴に叩きつける！
死神がローブの中に隠していた刃物を次々とこちらに投げる。その必死の抵抗は風に対して無意味であった。刃物は暴風に吹き飛ばされる。
飛んできた瓦礫に諸に衝突した死神は、命のない人形のように倒れこんだ。
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作者名：葡萄。 | 作成日時：2023年4月5日 17時
