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「はやく降りろ！重いんだよ」
「何の騒ぎかな？」
驚いてうつ伏せの状態のまま顔を上げる。先程まで花壇にいたはずの赤髪が、俺の目の前にしゃがんでこちらを見ていた。
きょとんと首を傾げて、俺の前髪をさらりと掬った。
「ぺんちゃん、この人から下りて」
「はい！ごめんな、A」
品定めのように俺の目をじっと見つめた後、やがて興味を失ったのか、赤髪は立ち上がる。ぺいんとの重みも無くなって自由になり、軽くなった身体を持ち上げた。
「あの、俺はシュヴァルツ国王の代理で来た者です。不変のタイルを貴方から買って来いと命じられています」
「へぇ…そうなんだ。不変のタイルは僕のお得意様しか買えないんだよ。君が嘘をついている可能性もあるわけで」
赤髪は微かな笑みを浮かべながら、俺の横で子犬のようにしょんぼりとしているぺいんとの頭を撫でる。
「でも、ぺんちゃんが懐いてるってことは、君のことを信じていいってことだ」
「それって…！」
「いいよ。不変のタイルを売ってあげる。僕についておいで」
手招きをする赤髪の背中を追いかける。ぺいんとは褒めてくれと言わんばかりに、ニヤニヤと俺を見あげていた。そんな彼の姿からは犬の耳と尻尾が見える。
「ありがと」
赤髪と同じように彼の頭を撫でようとした時だった。何かを感じて後ろを振り向く。が、そこには何もなかった。
「不変のタイルっていうのは、僕とシュヴァルツ国王の間でしか使えない隠語だよ」
「麻薬か何かなんですか？」
「鋭いね。これはフェンタニルっていう麻薬。五年前くらいからこの国で流行りだした物なんだ」
様々な代物が並ぶ倉庫へと赴き、彼から手渡されたのは小さな紙袋だった。中を開けてみると、透明な袋に包まれた色彩豊かな粉がいくつも入っていた。
麻薬を俺に買わせるなんて。しかも国王はこれを何度も買っている。国王が薬 物中毒者であるようには見えない。中毒者に起こる見た目の異変は見受けられない。
「…ごめんね、何に使っているかは僕にも分からない」
俺の心の中を見透かしたように、赤髪は言った。
「君はこれから帰るのかな？最近、スティールは治安が悪化してるから気をつけてね」
「この闇市でも暗殺が起きていると聞きましたが」
「実はそうなんだよねぇ…本当困っちゃうよ。あと、それでね」
ふわりと甘い香りがした。俺と赤髪の間を切り裂くように、一本のナイフが飛んできて倉庫の壁に突き刺さった。
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作者名：葡萄。 | 作成日時：2023年4月5日 17時
