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ふわりと香る香水に顔をしかめる。匂いが嫌いという訳では無いのだが、香りの甘ったるさに鼻をつまみたくなった。
それでも笑顔を崩す訳にはいかないので、口角を上げたまま貴婦人に話しかける。
「失礼ですが、お名前を聞かせていただいてもよろしいですか？」
「ここで本名を明かすのはタブーよ。覚えておきなさい、新入りさん。そうねぇ…私のことはラモールと呼んで。あなたは？」
「私は…」
敢えて偽名を使わないのも一つの手ではあるだろうが。何かあった時に面倒事になる可能性の方が高いだろう。
俺が数秒悩んでいる間、ラモールは愉快そうに笑みを零していた。
「レーヴ…と呼んでください」
「素敵ね。あなたも私も、こんなところで出会っていなければ…もっと素敵な付き合いができたかもしれないわ」
「光栄です」
宝石のような彼女の瞳。その瞳の奥にゆらりと揺れる闇のようなものを感じた。
ぺいんとの言う「秘密だらけの目」とは、今の俺に見えている彼女の目と同じことを指しているのかもしれない。
オークション開始の予ベルがなる頃には、もう空席は無くなっていた。俺とラモールの間にあった空席には、ガタイのいい見知らぬ男が座っている。
周りのザワザワとした話し声を遮るように本ベルが鳴ると、客席側の照明は暗くなり、ステージの明るさが眩しくなった。
そのステージには、先程までいなかったはずの、あの赤髪が堂々と立っている。
「さあさあ、皆様！お待たせしました！これより闇オークションを開催いたします！」
赤髪が一礼をすると、ドッと拍手が湧き上がった。
俺がオークションで買わなければならない物はない。目的の不変のタイルは、いつもこのオークションが終わった後に主催に直接買い求めていると国王が言っていた。
「それではまず一品目です」
ガラガラと運ばれてきたのは、ガラスに守られた金の装飾品。こほん、と咳払いをしてから主催は説明に入る。
「こちらは古代遺跡から発掘された、闇のペンダント。これを身につけた者は一年以内に必ず死に至ります。前々回のオークションで買われた品物ですが、なぜ今回も出品されているのでしょうか。皆様のご想像にお任せします。
それでは…十万円から！」
「十五万だ」
「十七万！」
我先にと希望者が手札を上げる。それを歯切りよく見極めていく赤髪。
「以上、三十万円での落札です！」
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作者名：葡萄。 | 作成日時：2023年4月5日 17時
