【WT】鮮紅の花束 Ⅴ (ページ26)

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第五十三話「価値」ページ26

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「ウフフ…あなた、どこの御方かしら」

ころころとした鈴のような可愛らしい声が、Aに問いかける。彼は少しだけ傾いていた赤い仮面を直してから、貴婦人に顔を向けた。

「シュヴァルツ王国の者です」

「あら、そうなの。でも変ね、いつもは国王様直々にいらしていたのに」

くすりと上品な笑みを扇子の裏に隠して、彼女は言う。その口振りは、国王との親密な関係を示唆されているように感じた。

「あなたはご存知？最近、ここの闇市は暗殺の場所としても人気が高いのよ。だから気をつけた方が良いわ、いつも以上にね」

紫色の艶やかな横髪を耳にかける。仮面の奥に見えるアメジストのような瞳に吸い込まれそうだった。喉元を隠す白のボレロは、彼女の紫を際立たせていた。

「巷では『死神』と呼ばれている暗殺者が暴れているらしいの。この国もこの闇市も怖いわね。それに比べてシュヴァルツ王国は治安が良くて、羨ましいですわ」

「あなたはどちらの御国からいらしたのです？」

「私はこの国の貴族よ。申し出が遅れてしまってごめんなさい。気を悪くしないでね」