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何冊もの手帳や本なんかを読み漁り、いつの間にか本棚は隙間だらけになっていた。
「やっぱりな」
パールの使う神術とやらについて言及した物が一つもない。神術も異能力の一種と考えて調べていたが、その言葉が一ミリも本の中でかすらない。
異能よりも価値は無いと言っていたが、それでも分析結果なんかは残されていてもおかしくないだろう。
異能と同じく、普通の人間にはできないことを可能にしている力。であれば、異能研究書の中でも神術に触れられていないのはどこか不自然なように思える。
「…これ、前に見たやつ」
ぴくとさんに渡されたことのある、異能力者の記録や名簿、そして彼らの日記。
"忘れられた"と呼ばれる彼らが人々から思い出されたのは、これらが残されていたからだった。
はらりとページを捲っていけば、聞き覚えのある名前がそこに書き記されていた。
＿＿＿＿＿らっだぁ、記憶の異能力者。
この人なら。皆の記憶から彼らを消した犯人なら。何か知っているのではないか。
さらにページを捲っていくと、目に止まった異能力があった。
光の異能。光を自由自在に操る異能である。操る光は実体を持たせることもでき、非常に使い勝手がいい。そう記されていた。
もし、本当にこの異能が彼女の"神術"に当てはまるとしたら。どういうことだろうか、彼女は異能の後継者ということになる。
後継したというのに少ししか技は使えないなんて。少なくとも、後継者であるシャークん、きんときが問題なく異能を扱えているのだから有り得ないはずだ。
どうしてこんなにも気になるのか、よく分からない。
けれど、俺の中に異能としてまだ存在しているあの人が騒いでいる。
「ネクタイが曲がっていますよ」
「え？あ、ありがとう」
全身が映る鏡の前で、身支度を整える。いつも適当に直している寝癖も、だらしなく隈を付けていた目元も。
今日だけはきっちりと整えられ、自分で言うのもあれだが、いかにも好青年という格好になっている。
「どうか、ご無事で帰ってきてください」
「できるだけ頑張るよ」
「必ずです！」
荷物を持つ俺の左手にパールの手が重なる。カチャリと音を立てながら、彼女の手の上にさらに俺の右手を添えた。
「A様にもこの気持ちは分かるはずです」
「うん、分かるよ。痛いくらい分かる」
一瞬だけ、珍しく声を荒らげた彼女に微笑む。
ここで死ぬわけにはいかないから。
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作者名：葡萄。 | 作成日時：2023年4月5日 17時
