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全身が映る鏡の前に立たされる。メジャーで忙しなく俺の身体部位の長さや周囲を測っているパールは、うーんと声を零した。
「なんだよ」
「いえ、ぴくと様もあまり筋肉が無かった…と思い出して」
「俺は別に、筋肉とか興味無いし」
「無駄なものがなくて良いと思いますよ、私は」
カタン、とメモを書き留めた羽根ペンは机に置かれる。配色の要望はあるか、と訊ねられて咄嗟に黒が良いと答えた。
「それでは、この中から仮面をお選びください」
ガラガラと俺の目の前に運ばれてきたのは五つのベネチアン・アイマスク。
ヤグルマギクの青色の仮面。ヒナソウの緑色の仮面。ヒスイランの金色の仮面。フランスギクの赤色の仮面。スズランの紺色の仮面。
どれも花がモチーフにされている美しいものだった。誰かが一度使った物なのか、金色の仮面には傷がある。
「何色が似合うと思う？」
「そうですね。やはり赤色ではないでしょうか。A様の瞳と同じ色です」
彼女の選ぶ仮面を手に取り、早速着けてみる。案外似合うもので、これを身につけただけで貴族になれるような気がした。
「よし、これにする」
「分かりました。私は今すぐ仕立て屋に連絡しに行くのですが、A様はどうされますか？」
「俺は城の図書館に行くよ」
「それでは、私の用事が終わり次第、お迎えに上がります。外出許可になったとはいえ、監視は継続しなければなりませんので」
彼女も彼女で大変だ。俺は大人しく分かった、とだけ答えた。今はここから抜け出して皆に会いに行くよりも、国王からの信頼を取った方が良さそうだ。
図書館を訪れるのは久しぶりだった。最後に来たのは確か、スマイルが仲間になってすぐの時だろう。あれからもうこんなに日が経ってしまったのか。
記憶を頼りに、ぴくとさんが以前俺に渡してきた異能に関する本がある棚へと赴く。
「あった、あった」
古びた一冊のノートを手に取り、パラパラとページを捲る。十数年前、この城にいた異能力者が残した記録だ。
このノートの他にも、当時の異能力者の物であろう書物がいくつか見つけた。中でも一番損傷が激しかったのは、革のカバーが焦げている手帳。
「…日記かなんかか？うげ、ところどころ外国語で読めねぇ」
一つだけ疑問に思ったことがある。それを調べるために来たのだが。
この中のどこかに、あるはずなんだ。
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作者名：葡萄。 | 作成日時：2023年4月5日 17時
