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「なかむ…ねぇ、なかむってば！！」
「うるさい！！」
掴んでいた俺の手を振り払って、ぶるーくは立ち止まる。何度も名前を呼ばれて、咄嗟に口から出たのは心に思ってもいない言葉だった。
先程まで我慢していた怒りが爆発し、彼に八つ当たりするような形で現れてしまう。すぐにごめん、と謝るとぶるーくは小さく首を横に振った。
「なかむ。今日のことはさ、皆に内緒にしない？」
「…なんで」
「僕達は自分が思っている以上にA君に依存してた。国王に言われた通り自立はしなきゃ」
踏みしめる赤色のカーペットが憎たらしい。今すぐにでもAを捜したいが、城の至る所に付けられた監視カメラがそれを許してはくれないだろう。
「A君は多分、もう二度と僕達のところには来ない。国王がそうするはずだし。それなら皆には嘘を言って」
「俺はもう嘘つかないよ」
「なかむ…」
「俺は信じる。もう少し我慢すればAは帰ってくる！」
ぶるーくは何も言わずに俺の横を通り過ぎて行った。その際に見えた横顔は、俺に失望しているようだった。
俺が家に着いた頃にはもう、既にぶるーくが帰ってきていた。中に入ると美味しそうなシチューの匂いが食欲をそそり、惹き付けられるように台所へと歩いていた。
「きりやん！」
「おーおかえり。何の話だった？」
ぶるーくから聞いていないのか。そう訊けば、あいつは帰ってきてからすぐ寝てしまったんだ、ときりやんは鍋をかき混ぜながら答えた。
「最近の調子とか。あ、あとはこの前、三つの任務やったでしょ？」
「あぁ…魔獣討伐と海底調査、立入禁止区域の点検ね。まじで俺らが任される仕事じゃねーっつうの」
「あはは…その中の魔獣の解剖結果とか言われたよ」
もちろん、全くの嘘だが。
「俺らの得になんない話ね、いつものことだわ」
「まぁね」
味見用に小皿に盛り付けられたシチューを啜り、その味の良さに親指を立てた。きりやんは自慢げに眼鏡をくいっと上げる。彼の眼鏡は湯気で曇っており、そのせいで仕草は格好よく見えなかった。
「今度さ、ちゃんと当番決めよっか。きんときときりやんでほとんど家事回してもらってるけど、こういうのはやっぱり皆で分けた方が良いと思うから」
「俺はどっちでも良いけど、あのシャケが掃除できるかね」
「ま、まあまあ…」
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作者名：葡萄。 | 作成日時：2023年4月5日 17時
