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『なんであいつが本気出さないかって言うと、暴走するからだ』
『暴走？』
『異能検査室に籠ってたスマイルみたいな状態だよ。自分の意思と反対に勝手に発動する。それを俺らは"異能に喰われる"って呼んでる』
ゴム製のナイフで風を切り裂きながら、くるりと華麗にバク転をしたシャークんはスマイルを見やる。
『異能に喰われないために、本当は定期的な検査が必要なんだけど。スマイルのせいでできなかったんだよなぁ？』
『……』
『ま、そういうことだから。もしも、なかむが突然黙るようなことがあったら気にかけてくれ。あいつは集中すると黙るから』
いつぞやの彼との会話を思い出したスマイルは、まじまじとしゃがんでいるなかむの背を見つめた。
異能が暴走する原因は主に二つある。
一つは身体的問題。保持者の
そして心理的問題。理性を失うほどの感情に飲まれると、それと連動して異能も勝手に発動されることが多い。なかむの暴走する原因はこの二つどちらにも当てはまる、とシャークんは前に言っていた。
『スマイルとなかむはちょっと似てる気がすんだ。あんまり人を頼らないだろ？スマイルは一人で解決すること多いし、なかむは一人で抱え込む』
『否定はしないけど』
『うん。だから、よろしく頼むぜ。なかむは
バキンッと割れる音が聞こえ、現実の世界に意識が戻される。なかむは頃合を見計らっているらしく、さらに目の奥の闘志を燃やしていた。
「まっずい。崩す準備！」
瓦礫を上り、山の裏へと行く。スマイルの足元を冷気がさっと駆け抜けて行った。
「合図出したらやれ」
「おーけー」
「行くぞ」
尻尾の男がシャベルを振り上げる。氷から半身だけ抜け出していた小柄な男は、微かに呼吸をしていた。
「さん……に…」
シャベルが氷に刺さる。すると、硝子のように氷は砕け散り、閉じ込められていた身体が露になった。
「いち！」
スマイルが右手を空高く上げる。それを見たなかむを冷気が包み込む。ふわりと巻き上げられた彼の長い前髪。いつも隠されている右目が、ダイヤモンドの様に輝いていた。
「行けェェ！！」
スマイルは瓦礫の山から思い切り、空へ向かって飛んだ。なかむの手から生み出された氷が山を貫き、切り崩した。
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作者名：葡萄。 | 作成日時：2023年1月22日 17時
