▽ ページ49
・
継承が終わった後、特殊部隊の住まいは、これまでの騒がしさが嘘のように静まり返っていた。
「ねぇ、皆」
なかむの声がけに誰も応じない。皆揃って顔を隠しているため、表情を確認することもできなかった。
「ご飯食べよう？あとはお風呂に入って、寝よう」
こんな時、Aはどうしていたっけ。
何の反応も示さない仲間たちの思いを想像するのは容易かった。どんな気持ちでいるのか手に取るように分かる。自分も初めはそうだったから。
なかむは唯一、継承の残酷な光景から目を離さなかった。離してはいけないと思った。
ここが自分達の岐路であることを確信していた。
「あんなことがあった後で普通に過ごせるわけないじゃん」
クッションに顔を埋めるぶるーく。聞こえないとでも思ったのか、その小声の呟きはしっかりとなかむに届いている。
「こうなるって分かってても、キツイ」
「ほんとそれ。今は何もしたくない」
スマイルの言葉に頷くきりやん。スマイルはなかむに背を向けていて、きりやんはぼうっと窓の外を眺めている。
「思い出すな、昔のこと」
俯くきんときの顔に影ができ、その表情は分からない。彼の肩に寄りかかって眠りについているシャークんは、精神的に酷く疲弊しているようであった。
なかむは何も言い返すことなく立ち上がり、冷蔵庫を開ける。その中には何の食材も入っておらず、空っぽだった。
「お湯沸かしてくる」
浴室に行き、浴槽に水を溜める。水温を上げるのにいつもきりやんの異能を頼っていたので、お湯ができないことにその時気がついた。
「分かってるし」
先程の皆の言葉が脳内で再生される。
「でも、一番辛いのはAだから！！」
どうにもできない苛立ちに頭を掻きむしる。
彼が戻ってきた時、笑って出迎えてあげたいから。
なかむは渦巻く感情をすべて吐き捨てるように、大声を上げた。その声は浴室に響き渡り、皆がいるリビングにまで届いていた。
聞こえてくる彼の大声にぶるーくが耳を塞ぐ。クッションに埋もれながら彼もまた、声にならない息を吐き出した。
・
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 162人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：葡萄。 | 作成日時：2023年1月22日 17時
