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「よく取り出した。次はそれを食べろ」
国王の声を何とか拾ったAは、左手のひらに乗るぴくとの心臓を口元に運ぶ。口を開きかじろうとするも、脳がそれを拒絶していた。
心臓の赤黒さに吐き気が込み上げる。
これをシャークんときんときが果たしていると思うと、胸が締め付けられた。
大丈夫。
『そんな簡単に大丈夫なんて言うなよ』
大丈夫だから。
まだ脈打つ心臓を噛みちぎった。咥える心筋を吐き気が込み上げる前に胃の中へと飲み落とす。
鉄の味に涙が止まらない。
これを繰り返せば大丈夫だ。そう自分に言い聞かせながらAは小さな一口を重ね続ける。
ごめんね、A君。
そんな声が聞こえたような気がした。
事が全て終わると、Aはすぐに意識を失って倒れた。血溜まりの中に横倒れになった彼の元へ、なかむがすぐさま駆けつける。
「…A！！」
死体の惨状は見たくもない。あちこちに飛び散る肉片を避けながら、なかむは彼の側にしゃがむ。血に濡れた黒髪を指の隙間に通し、優しく撫でた。
「辛いよ、俺。でもさ俺なんかよりお前の方が辛いに決まってるんだ」
なかむの後ろですすり泣く声が聞こえてくる。スマイルは死体に白布を被せ、糸を巧みに操りながらそれを持ち上げた。
「糸の異能力者よ、ぴくとの遺体は安置所へ」
「…御意」
「水龍の異能力者はAの身体を洗ってやれ」
「…た、直ちに！」
シャークんをぶるーくに預け、きんときは水龍を生み出す。水龍は倒れていたAを持ち上げて飲み込む。
水龍の身体が真っ赤に染まったと同時に、辺りに暴風が吹き荒れ龍の形が崩された。
床は水浸しになり、靴が汚れる。それに国王は顔を歪めた。
Aを守るようにして吹く暴風は、まるでぴくとの意思がそうしているようになかむには見えた。
どこか人の温かみを感じる暴風の中へと入り、その中心にいた彼の身体をなかむは抱き締める。
まだ水気の残る黒髪を自身の胸の中に引き寄せた。
「ぴくとさん、今まで本当にありがとうございました」
なかむの涙が風に吹き飛ばされる。
「……後は僕たちに任せてください」
その言葉に応えるように、暴風は止まった。もう一度力のないAを強く抱き締める。
「君は氷の異能力者だね。Aは一ヶ月ほどこちらで預かるよ」
渡したくなかった。けれど、今のなかむに国王に逆らう勇気は持ち合わせていなかった。
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作者名：葡萄。 | 作成日時：2023年1月22日 17時
