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「A…」
顔色の悪いシャークんの目を、きんときは両手で覆い隠した。一方、なかむは一瞬の間も見逃すまいと彼から目を離さなかった。
動かなくなったぴくとの身体を仰向けにさせる。Aは彼の心臓を取り出すために胸板の肉を剥ごうとしていた。
刺す度に感じる肉の切れる感触が気持ち悪くて仕方がない。緑色のローブは切り刻まれ、元の色が分からないまでに赤黒く染まっている。
込み上げる涙を我慢する余裕はなかった。ぼろぼろと目から溢れ落ちる涙は、血と混ざり合う。
見えてきた胸骨に剣の柄を思い切り勢いよく叩きつける。何度も、何度も。そうしていくうちにヒビが入り、壊れた。
同じように助骨を砕く。周りの筋肉も乱雑に切り落として行けば、肺が姿を現した。
心臓に近づいてくるにつれて呼吸が荒くなる。過呼吸のように吸っては吐いてを繰り返し、涙で汚れた顔を返り血で塗れた袖で拭う。
鉄の臭いが鼻につく。
『えーっと、君が新しい世話役だね。よろしく、俺はぴくとです。あんたの名前はAか』
肺を剣に突き刺し抉りとる。ブチブチと血管の契れる音に耳を塞ぎたくなった。噴水のように飛び出す鮮血が彼の涙を飲み込む。
『Aくーん！おい、げって言うな。普通に傷つくわ』
血の海の中に沈みかけている心臓に手を伸ばす。
『A君はよく頑張った』
限界に達したのか、心臓を目前に彼の手は止まった。滅多に大泣しない彼の呻く泣き声は地下に響き渡る。
血を見慣れたぶるーくでさえも顔を背け、スマイルは壁に背を預け俯いていた。嫌な記憶を思い出したシャークんは震え、それを落ち着かせるようにきんときが優しく包み込む。
「なかむ…」
「俺は見てる」
あまりに残酷な光景に崩れ落ちたきりやんの横で、なかむは地にしっかりと両足で立っていた。
「あいつがっ、一人で抱え込まないように…！」
そう言う彼の目からは大粒の涙がこぼれ落ち、足元を濡らしていた。
何度も激しく上下する肩。息を吸う度に荒くなる呼吸。次第に温もりを失い、冷たくなっていく恩人の身体。
震える手で心臓に繋がる血管を切り裂く。再び溢れる血液にめまいがする。
Aが手にした心臓は、いまだにドクン、ドクンと鼓動を続けていた。繰り返し行われている収縮と拡張の頻度は次第に少なくなっていた。
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作者名：葡萄。 | 作成日時：2023年1月22日 17時
