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「落ち着け、なかむ！あいつらが死ぬわけない！」
後退るなかむが、スマイルの背中にぶつかる。二人背中合わせで敵に狙われているこの状況は、まさに最悪だった。
「大丈夫。俺の中に希望はまだ残ってる！」
小柄な男の足元に落ちていた氷の欠片が揺れ動く。男の桃色の目がそれを捉えた時には、もう既に遅かった。欠片から伸びる鋭く尖った氷の針が、男の左腕を貫いた。
飛び散る鮮血が冷たいコンクリートの地面を濡らす。
「…は？何が起こっ」
「油断すんな、気張れやホビット！」
尻尾の男は両腕に血管を浮き出させ、持ち前の力でシャベルに絡まる糸を引きちぎった。
「こいつらに殺されるくらいなら！俺に殺されろ、ボケ！」
「うっさいわぁ…一回攻撃食らっただけやん」
スマイルは自分の非力さを痛感していた。背中越しに伝わるなかむの微かな震えが、さらに彼を無力の底へと落としていく。
強くなるためにここへ来たのに。この数週間で何の学びを得たのか思い返す。人の裏を勘ぐることか。仲間を思いやることか。
「俺らじゃ…勝てない」
「なっ、スマイル」
「逃げよう」
否、助けを求める勇気だ。逃げるという選択肢だ。
スマイルの指先から伸びる深い青色の糸が、尻尾の男をぐるぐる巻きにする。それに反応してなかむも、左腕を抑える小柄な男を氷漬けにした。
「行くぞ」
近くにある山のように積み上がった瓦礫の頂上へと糸を伸ばし、スマイルはなかむを小脇に抱える。
またも糸を引きちぎり牙を剥いて走ってくる男に、スマイルはわざと動き出さず、彼がこちらに近づくまで待つ。
ギリギリの瞬間を。
男は尻尾を鞭のように操ってこちらに向かって横に振る。なかむの伸ばしていた白い手が、その尻尾に触れた。
「凍れ、人外！」
なかむの指先から垂れる血が初めに凍り、伝播するように男の尻尾が氷に覆われ、すぐに全身を氷に飲み込まれた。
「今のうちだ。こいつらが恐れている俺ら二人の"脳"で考えるぞ、なかむ」
瓦礫に巻きついた糸をワイヤーの様に使って、自分たちの体を引き上げる。
「尻尾野郎は、その尻尾こそが異能。鞭みたいに使ってる。対してあの男は音を使ってるのか？いや、それじゃあなんで波が発生する？」
「俺が思うに、もう一人の異能は音波だ。奴らの異能の手は分かった。俺らが考えるべきなのは、奴らの目的だ！」
スマイルの目に光が宿る瞬間を、なかむは見逃さなかった。
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作者名：葡萄。 | 作成日時：2023年1月22日 17時
