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「ぎゃああああ兄さん助けてェェェ！！」
「俺の服を掴むな！！
聞こえてきた断末魔に手ごたえを感じる。ぶるーくがさらにもう一撃食らわそうとした時、足元を漂っていた藍色の煙が彼の全身を覆い、天井近くへと運ばれる。
「ん？！」
煙に肉体はないはずだ。それなのに誰かの拳の中に強く握られているような感覚がした。煙は巨大な拳へと形を変えており、ぶるーくを握りつぶそうとしていた。腕の中にいたはずのぶるーくがいなくなり、きりやんは焦る。
きりやんの目には、あのよれたスーツを着ている男が映った。冷や汗を掻きながら両足で立つ奴とは反対に、女性に扮していた眼鏡の男は血液の針に全身を刺され、動けなくなっている。
「痺れるけどっ！！」
全身の毛が逆立ち、バチバチと電流が身にまとわりつく。指先に今の自分の全てを集中させて両手を組み、銃の形を作る。
「ぶるっくにはやっぱり、勝てないわ」
バンッと心の中で合図を送ると、電流は銃弾となって放たれた。黄色の眩い閃光はぶるーくに夢中になっていた敵の首元に命中した。
バチンという大きな音がした。男の首には真っ黒い丸の跡が付いており、奴の目の焦点は合っておらず、口から白い泡を吹きだしてその場に倒れた。
煙の拳から解放されたぶるーくは地に降り立ち、残りの針を敵に向けて放つ。針は男の服を巻き込んで床に突き刺さり、敵を拘束したのだった。
「はあっ、あは、あっはは！！」
きりやんの後ろで、ぶるーくは笑いながら膝から崩れ落ち、床にうつ伏せになる。床の冷たさに自分がまだ生きていることを実感しながら、静かに彼は目を閉じた。
「ぶるっく！」
まだ残っている少しの気力でぶるーくは顔を上げる。心配そうにこちらを見ているきりやんに、彼は今の自分にできる最高の笑顔を浮かべて見せた。
「あは！僕、また死ねなかったや」
あの日、君と初めて会った日。
ぶるーくの頭の中に古い記憶が呼び起こされる。
思えば、生まれた時から普通の人間と思考がずれていた。その上、普通ではないことを決定づける力を与えられ、周囲の人間は自分から離れていった。
そうして孤独に囚われていたところに、一人の少年が現れたのだ。宝石のように美しい氷を生み出し、雨雲から雪を降らせた彼は言ったのだった。
『僕はなかむ。君と同じ異能力者だ』
ぶるーくは意識を手放し、昔の温もりに溺れていった。
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作者名：葡萄。 | 作成日時：2023年1月22日 17時
