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「さっきの電気のおかげでなぁ…」
男の足元へと目を動かす。敵の足はきりやんの電流によって痺れているのか、小刻みにプルプルと震えていた。顔とは正反対に情けない立ち姿である。
「立つだけで精いっぱいになってしまったわ、くそっ！」
ビッと指を差されたきりやんは拍子抜けしており、突然のことに間抜けな声が漏れていた。「あの人が異能力者なの？」こっそりときりやんに耳打ちする。
「まあ、弱そうで助かった」
「ほーん？？そんなこと言っちゃいますぅ？」
男は煙草を地面に捨て、小鹿のように震える足でそれを踏んずけた。腰に掛けていた鞘から短剣を引き抜き、女性の首元に突き付ける。
女性の小さな悲鳴が、僕の鼓膜を微かに揺らした。恐怖でより一層険しくなっていく彼女の顔が、忘れたはずの嫌な記憶を呼び覚ました。
気分は最悪だ。
「助けて、お願いッ！」
「下手に動いたら分かってるだろうなあ？」
男は女性の首を絞めていた左腕を緩め、その手をすっと彼女の服の中へと入れる。慣れた手つきは僕たちの殺意を増幅させるのに十分だった。
ニヤリと男の目が眼鏡の奥で笑っている。
「殺しがいがありそうだ」
普段よりも一段と低いきりやんの声に、僕の背筋まで凍る。敵はあの藍色の煙を足元から噴出し、またも僕らの視界から逃げようとした。
「あっはは！！そんな煙、意味ないよ」
僕は左手に思い切り剣を突き刺す。剣の刃は手の甲を貫通した。剣を元の血液の状態へと戻し、新たに流れ落ちる血液と共に赤い球体へと変える。
僕の数秒の準備の間に、きりやんは帯電させていた電流を右手の人差し指に集中させる。手で銃の形を作り、敵に向けて電流を放った。
放たれた電流は敵の短剣に命中し、金属から肉体へ伝わる電流に恐れた敵は短剣を手から落とした。緩んだ奴の腕の中から女性が自力で脱出する。
僕は血の球体を大きな大きな網へと変形させ、煙が充満する前に敵を捕獲した。僕の血液の網にぐるぐる巻きにされた男は、悔しそうに唇をかんだ。
「やっぱ大したことなかった」
「お姉さん大丈夫〜？」
「はい…本当に、ありがとう…ございます」
無事に助けられたことにほっと安堵したのも束の間、緊張が解けた女性が膝から崩れ落ちる。危ない、崩れる寸前だった彼女の身体を支える。
「危な…」
グサッ
聞きなれた音がした。違和感を感じた自分の腹部を見ると、そこには僕が愛用しているナイフが深く突き刺さていた。
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作者名：葡萄。 | 作成日時：2023年1月22日 17時
