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「乱暴に行こう」
きりやんの左手が地面に触れる。すると、床一体に電流の波が流れた。反射的に僕は飛び跳ねるが、左足に少し強い痺れを感じて声を上げそうになる。
人質も巻き込んで相手の動きを止めようとしているのか。槍を床に突き刺し、深く刺さった槍に僕はしがみつく。電流を食らうまいと必死に。
「このくらいでいいか」
「予告してくださいよ〜」
電流の波が三回ほどきりやんを中心に丸く広がった後、煙の奥で何かが倒れたような音が聞こえた。見事、きりやんの術中に相手がはまったらしい。
視界が悪いせいで得られる情報の数には限りがある。心なしか、煙が先ほどよりも薄くなっているように思える。
「誰かいたら返事してください」
「いやいや、それ電流浴びせる前に聞くやつやん」
「うっせぇ」
助けて。
今度ははっきりと、女の人の声が聞こえた。きりやんと顔を見合わせてこくりと頷く。腰を低く落とし、口元を塞いでいた手を放す。槍を持つ手には、無意識のうちに力が入っていた。
煙が晴れていくにつれて、部屋の惨状が目に飛び込んでくる。壁に飛び散る赤黒い血。僕らが突き破ったガラスの破片。散らかったタオル。横に倒れた机や椅子。
「見えた、ぶるっく！！」
「そりゃああああああ！！」
露になった黒い人影目がけて槍を投げる。何かに刺さったような音が聞こえた後、どさりと床に何かが倒れ落ちた。
そこに急いで駆け寄ろうとしたきりやんの足が止まる。僕の槍が刺さり、足元に転がっていたのはがたいの良い男の死体だった。
泡を吹いて白目を向いているその男は上半身裸であった。下半身もだらしがなく、何者かによって引き裂かれたズボンの破れ目からは下着が見える。
僕は死体の脇腹に刺さった槍を抜き取り、剣へと変形させた。
「趣味わりーな」
「マジでそれな？」
「ほーお。そんなら、あんたらと僕は一生分かり合えないね」
ただならぬ気配を感じた。声のした方向へと視線を動かすと、そこには一人の男がいた。よれよれのスーツをだらしなく着こなしており、赤色のネクタイは緩んでいる。
そんな男の腕の中には、目から大粒の涙をぼろぼろと溢し、酷く怯えている女性がいた。
男は口に銜えていた煙草の煙をふっと吐き出すと、品定めをするように僕たちを足のつま先から頭の上まで見ていた。
「いやあ、参ったわ。おたく、想像以上に強いやん」
余裕の笑みでこちらを見下す男からは、甘い香水のにおいがした。
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作者名：葡萄。 | 作成日時：2023年1月22日 17時
