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指先に全神経を集中させる。なかむが何かを声に出しているが、それさえも聞こえないくらいに。
十本の指先から生み出された真っ白な糸は全方位に伸びて行った。ぐんぐんと建物や森の木々を針で縫うように、俊敏に駆け巡る。
お願いだから、あいつらを見つけてくれ。そして俺たちの元まで導いてくれ。
白が次第に黄色に淡く染る。この希望が、どうか彼らに届きますようにと後は願うことしか出来ない。こうして考えている間にも、糸は四方八方に枝分かれして進んで行く。
このフィールドの支配者になったような気分だ。糸の分岐によって、どんな障害がどこにあるのかが感覚で分かる。
不思議と気持ちが良かった。自分の異能の新たな使い道を見つけ、何よりも皆の役に立てる可能性が格段に上がったことが、嬉しかった。
緑、赤、青、紫、茶、黒、白、灰、金、銀。
全部乗せて行け。
「…あ」
触れた、何かに。左手の人差し指から伸びる紫の糸が張る。その糸から伝わってくるのは、確かな人の温もりと振動。
___これを辿れば、皆と合流できる！
Aの声。
紫以外の糸を全て断ち、左手の人差し指に全神経を集中させる。微かに震える糸が指先に音を伝えていた。
「A！聞こえるか？！」
「見つけたの？スマイル！！」
____え、スマイル？聞こえてる、どこにいるんだ！
「目的地、激戦区だ。きんときが右腕に重傷。今すぐにシャークんと合流したい」
ぴんと張っていたはずの糸は、突然緩くなった。Aの声も聞こえなくなり、はっと顔を上げる。
遠くの方で緑色に光る稲妻を見た。森の緑から飛び出してきたそれは、ヒトの形をしている。
「シャークんとAだ！！」
なかむの歓喜の声で、やっと緊張が解ける。きんときもまだ意識があり、安心したような顔をしていた。
シャークんの小さな背中に掴まっているAが、こちらに向けて大きく手を振る。これできんときが助かる。そう思っていた矢先だった。
アオーォォン。
狼の遠吠えが聞こえる。とてつもなく大きな白銀の狼が、二人に噛み付いた。血飛沫が雨のように静かに落ちていく。
時間が、この時だけ停まったような。
「は？」
うあああああ！！
後方から上がるなかむの叫び声。周囲を取り巻く冷気。
「なかむダメだ！！」
「いいよ、なかむ」
俺と反対に今すぐにも消えそうな声で、きんときは動かせる左腕を使い、なかむの背中を押した。
「お前は強い」
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作者名：葡萄。 | 作成日時：2023年1月22日 17時
