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第二十四話 ページ24

「ずっとあったわけじゃ、なかったんですね。」



当たり前のようにあの頃の話をするから、てっきりそうだと思ってた。



僕の言葉に、伊黒さんは致し方ないというように首を縦に振った。



「ああ。時透が中等部に入る前だからな。知らなくて当然だ。」


「へぇ。」



そうなんだ。



確かに、最近思い出したばかりの人に訊けばわかるかもしれないよね。



記憶を呼び起こした者と、そうでない者の相違点。



そして、記憶を引っ張り出す鍵となるものが。



「じゃあ炭治郎に訊いてみようかな。」



先生じゃないから会いに行きやすいし、一番いい。



そう思っていると、不死川さんが嫌そうに眉をひそめた。



「時透、それはやめとけェ。」


「どうして?」


「アイツの説明、聞いたことないかァ?」



あ。


それを言われて僕は思い出した、柱稽古の時のことを。



炭治郎に痣の話題を振った時の返答。




『こうグワーッときて! お腹とかもググーッと!!』




「駄目だ。」



炭治郎、説明するの壊滅的に下手なんだった。


炭治郎に説明を求めるのは酷だね。


仕方ないかと思いながら、僕はさっき気になったことを訊いてみた。



「何も覚えてない人は、Aの他にもいるの?」



軽く、世間話の続きのように。


深い意味は何もなく、ただ何の気なしに尋ねてみただけだった。





………それなのに。



伊黒さんに目を向けると、その驚いたような、動揺したような瞳と視線がぶつかる。



場の空気がいっそう重々しく歪む、妙な静けさ。



不死川さんが視線を机に落とし、伊黒さんは苦しげに目を細める。



………何か駄目なことを言ったんだろうか。



焦りを感じて謝ろうと口を開くと、遮るように伊黒さんの声がした。



俺が聞いた範囲の話だが、と続ける。



「竈門炭治郎と一緒にいる奴ら………我妻と嘴平か。後は胡蝶の姉と不死川の弟、それと、」





そこで、声が途切れる。



伊黒さんは暫し黙り込み、続く言葉を探すかのように視線を空中にさ迷わせる。



数秒の沈黙の末、伊黒さんは呟きのように言った。









「…………甘露寺。」

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作者名:夢見草 | 作成日時:2021年3月1日 20時

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