第二十三話 ページ23
「Aの記憶を、取り戻すことはできますか。」
思ったよりも固く強ばった声が出て、自分が緊張しているのに気がつく。
それと、返答を聞くのがどこか………怖いと感じていることにも。
明確に何に対してというわけではなく、漠然とした恐怖。
ぎゅっと唇を引き結んでいたけれど、二人とも考え込むように宙を睨むばかりで、返答がない。
沈黙の後で、僕は少し苦笑して見せた。
「っていうことが訊きたかったんだけど。」
不死川さんも伊黒さんも、知らないと言った。
そうわかって落胆する気持ちと、安堵にも似た感情がない交ぜになる。
自分でもわからない絡まった心の内を、二人に悟られまいと奥底にしまった。
"記憶を取り戻させる方法を、一緒に考えてほしい"
そう口に出そうとするより一瞬早く、伊黒さんが僕に視線を戻した。
「時透、煉獄に訊いてみたらどうだ。」
「煉獄さん?」
「そうだ。煉獄じゃなくても、悲鳴嶼さんか竈門炭治郎でも良い。」
突然そう言われて、僕は首を傾げた。
煉獄さんに、悲鳴嶼さんに、炭治郎………?
名前のあがった人たちの共通点は、特に思い浮かばない。
どうしてと訊く前に、伊黒さんが鋭い眼差しで僕を射抜いた。
「煉獄、悲鳴嶼さん、竈門炭治郎。ここ数年で記憶を取り戻した三人だ。」
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作者名:夢見草 | 作成日時:2021年3月1日 20時