君という人 ページ6
side.so
「……ん、シャオちゃん？どうしたの、夕飯にはまだ早いけど」
訓練後、腹が減って食堂へ行けば、Aが大量に食材を切っていた。
俺の方を向いたままじゃがいもを切る手を止めない彼女に、最初は血の気が引いたものの今では慣れてきて。
……まぁ冷や冷やはするから、ちょっと手を止めて欲しい。俺ら10何人の料理を1人で2.3食毎日作ってるのだ、手を止めている時間なんて無いんだろう。
ちなみに日曜日はAの完全休暇日だから、そういう日は俺らが当番制で料理している。
Aは俺らの料理を味に関わらず楽しそうに食べてくれるので、苦じゃない。妹みたいに思ってるし。
まぁ、あまりにも忙しい時期はAがいつも以上に栄養を考えた料理をメンバーの口に押し込んでいる。休み無しで。
「いや、腹減っちゃってさー。りんご1個貰ってもええかな？」
「ちょっ、そ、そのまま食べんの！？……確かに美味しいけど！私の前でそれは許さん、5分待ってて。」
Aは俺の手首をパシっと掴んで、艶やかな赤林檎を奪い取る。
忙しそうに冷蔵庫を漁り、シャリシャリと切り始め、なにやらラップをしてレンジへと放り込む。
そして、その待ち時間に小さな皿を取り出してなにかを載せると、俺の方を振り向いた。
「味見、する？」
「それは……パエリア？」
3口程の量が乗せられた、黄金色の米。1口食べると、ほくほくと柔らかな米と優しい味が口内に広がる。
「え、うま！」
「なら良かった！」
Aはにっこりと笑って、俺達が1番よく使う小さめの電子レンジを見た。
ピー、ピー、と音が鳴って、俺の前に置かれたのはバターとシナモンの香る美味しそうな焼きリンゴ。
「これも美味そう！」
「なんとここにアイスを乗せます！」
「ヒュー！！」
焼きリンゴの蒸気で、アイスはとろりと垂れた。思わず涎が出てきてしまうほど、魅力的な林檎。
Aの料理は不思議だ。苦手なもんとか、嫌いなもんとかでも、すっごく美味しく見えて、食べて、克服できることもある。
「でしょー！あ、毒味しよか？」
「いや、ええよええよ。見てたし」
「そっか、ならいいや。熱いからゆっくりねー」
「おうよ！忙しい時にすまんな、ありがとう！」
「いーのいーの、またいつでもおいでー」
Aは再びにっこりと笑って、俺は調理室から出る。
ふわり、シナモンが鼻孔を擽った。
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作者名：See. | 作成日時：2020年10月17日 11時
