向日葵を食せ！ [ em ] (ページ14)

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「それにしても、グルッペンさんの喉元にナイフ突きつけるなんて凄いですねぇ」

調理室まで彼女を案内する傍ら、少しだけ情報班から聞いていたものを話題に挙げた。

「……別に。殺すつもりはなかったよ、人殺せないし」

「そのほうがいいです。無益な殺生は、何も生みませんから」

なにか思い当たる節があるのか、彼女は柔く唇を食んだ。

……御両親な居ないそうだ。スラムで殺されたか、この子自体が拐われてきたのか。

「………エーミール、って言ったっけ」

「はい、エーミールですよ」

「記録係かなにか？」

「おぉ、よく気付きましたね。そうですそうです」

私は幹部で"記録"を担当している。

グルッペンさんがトップになってから、いつ、どこで、どこと戦争をして、どうなったか。どれ程の犠牲が出たか、軍力はどれくらいだったか。

主にそのようなことを記録している。

それは、私達の戒めだから。

領土拡大のためとは言え、沢山の犠牲を出してきた。一人一人弔えない代わりに、こうして記録している。細かく、丁寧に、同じことを繰り返さないように。

今回グルッペンさんに頼まれたのも、この子の記録だ。まぁ面倒見てやってくれ、の意も含まれているけれど。

「………別に。私の名前も知ってるの？」

「いえ。データとしても無いでしょうねぇ…お尋ねしても？」

スラム街に住む方達には戸籍なんて無いようなもので、私達のデータにもない。
つまり管理が出来ていない、表向きは居ないことになっているのだ。

「…………A。」

「Aさん、ですね。わかりました」

手元の小さな手帳に、Aと書いて、丸で囲う。

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