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EPISODE 08. ページ8

「っ、やっぱり、私、お母さんに……何もしてない」

綺麗にカレーを平らげて、空になった皿をさげたときにはもう日付が変わる頃だった。母がビール缶二本とケーキを冷蔵庫から取り出したところでそう言えば、母は少しだけ困ったように眉を下げて、綺麗にワンホールのケーキを切り分け始める。

そして時計をちらりとみて、誕生日おめでとう、とケーキの二本のろうそくに火を点ける。二十歳だから二本だ。真ん中にはチョコレート板に私の名前と、誕生日おめでとうの文字。


「二十歳おめでとう」

……時計を見ればもう、〇時を回っていた。


私は一瞬渋って、けれどろうそくの火を吹き消す。それを見て満足そうに母が笑って、電気を点ければ窓辺にあの日と同じ黒髪の、半透明の男の人が立っていた。


母がそれに気づくと、綻ぶような綺麗な笑みでその人に近づく。相手の男は、あの日、私が小学生の時に見たときとまったく変わらない容姿をしている。そんな姿で、母に控えめに笑って見せて、ゆっくりと口を開いた。思ったよりも低くない、鷹揚のない声。

「A、もういいでしょ?」
「もうちょっと待って」
「…まあ、散々待たされたし。今更どうってことない」
「あはは、そうだね、随分待たせちゃった」

そう母が言えば、半透明の男は母の腰にゆっくりと手を回す。そのまま震えた声で待ちくたびれたと母を強く抱きしめた。そのまま連れて行ってしまいそうな勢いに私は思わず、あのときのように駆け寄りそうになった、が。


「……っあ、」

母の背中越しに男は目を細めてしぃ、と妖艶に唇に手をやる。黙ってみてろ、その仕草に私は動けなくなる。男は幸せそうに、猫のように、母の体に擦り寄っていた。

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乃海(プロフ) - 雪さん» はじめまして、コメントありがとうございます。すごく嬉しいです(;_;) 素敵な感想ありがとうございました! (2017年4月1日 10時) (レス) id: be24ee2730 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 初めまして、コメント失礼します。タイトルに惹かれ読ませていただきましたが想像を遥かに越えた物語に号泣致しました。涙が止まりません、本当にありがとうございます。長々失礼しました。 (2017年4月1日 1時) (レス) id: d1d79a0ef0 (このIDを非表示/違反報告)
乃海(プロフ) - 天。さん» コメントありがとうございます。私にはもったいないお言葉ですがすごく嬉しいです! これからもよろしくお願いします! (2017年3月27日 13時) (レス) id: 563e27cb0b (このIDを非表示/違反報告)
天。(プロフ) - 新作おめでとうございます!もう本当に流石としか言いようがありません。乃海ちゃんの繊細で美しい文章や表現、本当に素敵で、物語に引き込まれます。悲しくもどこか優しいストーリーで感動しました( ;o;) 次回も楽しみにしています! (2017年3月26日 6時) (レス) id: 92e7d22647 (このIDを非表示/違反報告)
乃海(プロフ) - ぽん(元あお)さん» ぽんコメントありがとう〜〜! ぽんからのコメントとてつもなく嬉しいです! ぜひ結婚しよう… (2017年3月25日 22時) (レス) id: 563e27cb0b (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:乃海 | 作成日時:2017年3月25日 0時

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