蛇の這う魔酒・10年間編 (ページ12)

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Need not to know ページ12

黒羽盗一はあの後も忙しくなく用事が入っているとの事で、俺たちは控え室を出てホールからも離れると時間も時間であるからと、当初誘われていたカフェではなく地元のカナディアンバーに行く事にした。

「せっかくカナダまで来たし、アイスワインにしようかしら」

「あぁ、いいね。俺は、そうだな…、キングス・バレイがいい」

「カナダに来てスコッチって…野暮ねぇ」

「こだわりなんだよ」

シャロンは明らかに呆れるように眉根を寄せた。

「で？何であの時カフェに誘ったんだ？言いたいことがあったんだろ？」

俺が目もくれず言うと、シャロンは眼差しを鋭くした。

「ねぇ、貴方本当に72歳なの？身振り手振りも、細やかな動作も、70過ぎとは思えない。ここまで来るときに見たバイクの走りもよ」

俺はシャロンに凄むようにゆっくり話した。

「なら、シャロン、君があの時見た俺は、別人だったとでも？姿も、声も、所作も、思考すら同じ人間が、二人以上、違う時期にいるとでも？」

シャロンは押し黙って俺を睨む。

「別人なら、少なくとも今の俺は昔の俺を知らなければならない。姿も、声も、所作も、思考すらも似せる為に。でもそれじゃまた逆戻りだ。結局今の俺はそれを知る為にあの時生きていないと成り立たないんだから」

「…そう、ね」

シャロンは一瞬だけ顔を伏せて、また上げた。

「なら、どうしてそんなに若いままなの？貴方のその顔は、絶対に変装なんかじゃないでしょ！
なにか、若返る薬とか…飲んだり…」

「してない。そんな薬なんて存在しないだろう？」

俺は被せるように返した。
シャロンは俺にAPTX4869か、それに準じる薬を疑っているのか。
そのままシャロンに話させていたらいつか彼女自身が墓穴を掘るだろう。
だが、このまま彼女の失言をフォローしていたら墓穴を掘るのは俺の方だ。答えざるを得なくなる。
無理矢理話を変えるべきか。

「シャロン、俺の事は知らない方がいい。ほら、知らぬが仏と言うだろう」

「それは、知ってしまったら後悔するかのようね」

「そうだな。俺の事を知ったら後悔するよ。もう後には戻れなくなるのは確実だ。これ以上掘り返すのはやめよう」

シャロンの顔はどうしたって納得したようには見えなかったが、知ったらいけない事というのは自分が知ってどうにか出来る程度のことの重さではない事だと理解したという顔をしていた。