笑顔の仮面は知っている2【探偵チームKZ事件ノート】 (ページ30)

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第77話『ありがとう』ページ30

杏奈side

不器用な上杉くんの、精一杯の優しさなんだろう。

「・・・上杉くん」

「なんだよ」

「私、なんだかとても寂しくて、思わず上杉くんを呼んじゃったの」

暗いところに一人でいたら、すごく寂しくなって、怖くなった。

「ほんとに来てくれるなんて思わなくて、すごく嬉しかったよ。」

私は上杉くんの方を振り返り、にっこりと笑う。

「ありがとう」

上杉くんは照れたように横を向く。

「じゃあ、俺もう帰るから」

「うん。ごめんね、こんな時間に」

「こっちこそ、電話して悪かった。」

上杉くんはそれだけ言うと、ペダルを漕いで帰っていった。

私は安心したのか、突然眠気が襲ってくる。

でも、こんな時間に眠ったら学校遅刻しちゃう。

私は諦めて7時まで勉強をすることにして、そのままいつも通り朝食をとって、制服に着替え学校に行った。

とはいえ、事件が解決してもまだ気は抜けない。

若武くんのダンス大会までもう少し。

私と黒木くんと小塚くんは、曲の最終調整を行ったり、若武くんのダンスとの合わせをしたりで、あっという間にダンス大会前日になった。

集合場所は変更なった。

あのビルのM＆Mは、国立感染症研究所が封鎖して入れないらしいので、青山にあるM＆Mの日本店の方を貸してくれるみたい。

私が集合時間15分前にM＆Mにつくと、ちょうど上杉くんと小塚くんと会った。

上杉くんとはあれ以来だからなんだか気まずい。

ふと上杉くんと目が合い、私が戸惑っていると、上杉くんは甘い唇に優しい笑みを浮かべた。

「行こうぜ」

わ、笑われた・・・？

でも、普通だよね・・・。

私はほっとして、小塚くんと上杉くんの後に続いてM＆Mに入っていく。

中には、衣装に身を包んだ若武くんと彩ちゃんがいた。

若武くんの衣装は、なんというか、純度100パーセントの悪意を感じた。

「あ、衣装できたんだね」

瞬間、若武くんの声が飛んだ。

「上杉、おまえなぁっ！」

食ってかかろうとした時、床に置いてあった若武くんの秀明バッグの中で携帯が鳴り始めた。

しかたなさそうに舌打ちして、若武くんは自分の携帯を取り出す。

「はい」

耳に当ててすっと深刻な表情になり、そのまま黙り込んだ。

私たちは顔を見合わせる。

目と目の間を言葉が飛び交った。

誰からだろ。

さぁ、わかんね。

「わかりました」

若武君の慎重な声が響いた。

「それでいいです。行きます」

そう言って電話を切り、私たちを見回した。