☆ つづき ページ23
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授業中は騒がしすぎる美術室は、無人だった。
「そもそも、画材ってどこ? 宇随先生、ちゃんと言ってくれないと困るよ」
愚痴をこぼしながら、美術室内をぐるぐる回る。
ふと顔を上げると、壁に貼られてある1枚の絵に目が吸いついた。
鮮やかな群青色の空と、透き通るような若緑色の芝生。
中心に、どこか儚さを感じる、散りゆく桜が描かれている。
その木の近くには、亜麻色の髪の女の子と、長い黒髪の女? 男? の子がいる。
題名は「桜、仕舞」。
「綺麗」
思わずぽつり、と呟いた瞬間、ガラガラと後ろから扉の音がした。
『失礼しまー・・・・・・え、お客さん!?』
振り返ると、亜麻色の髪の女の子が、目をパチパチさせて僕を見ていた。
その手には、絵の具セットが握りしめてある。美術部の子かな。
『あっ、君、時透無一郎くんでしょー! 覚えてる。みっちゃんがウワサしてた。
美術部の仮入部? それとももう入部?』
「いや違う。宇随先生から画材を取ってこいって」
『あ、そうなんだね、お疲れ様! 良かったら、わたしも探してあげるよ』
「いやいいよ」
『たぶん、この机の下に・・・・・・あっ、あったよー!』
彼女はキラキラとした目で画材を取り出すと、僕に手渡してくれた。
いや、断ったよね僕。話を聞こうね。
「ありがとう。わざわざごめんね」
『ぜーんぜん。ね、無一郎くん。この絵に見惚れてた?』
そう言って彼女は桜の絵を指差した。
「まぁ・・・・・・綺麗だね。君が描いたの?」
『うん。ちなみにこの子たち、描くつもりじゃなかったんだけど、気づいたら描いてたの。
亜麻色の髪の子はわたしだと思うんだけど、こっちの子誰なんだろうね?』
「僕に聞く?」
さくら。サクラ。桜。
何か僕らは、大切なことを忘れている気がする。
「君は・・・・・・どうして絵を描くの?」
『え。好きだから、じゃないの?』
こてん、と首をかしげる彼女。
・・・・・・僕にはないものを持っているんだ。
僕には、好きなものなんてないから。
この絵には、目標も、信念も、何もない。
そこに込められた想いは――――――好き。
伸びやかで、自由で、晴れ晴れしていて、桜色なのに青い。
どこか、惹かれる。
この絵と、彼女に。
『わたしは桜木A。暇な時遊びに来てね! 待ってる!』
淡い桜色の花びらは、優雅に咲き誇っていた。
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Nami - 冨岡さんとの甘々な話お願いします。少々ピンクとか…/// (2022年11月28日 16時) (レス) id: 7f8b02d024 (このIDを非表示/違反報告)
さつむいこん(プロフ) - お酒さん» コメありがとうございます!!音柱様ぜひ書かせて頂きたいです!(ただし全年齢作品&作者自身未成年の為、あまり色濃くできないのでご了承を…)テスト前なので気長〜にお待ちいただけるとありがたいです(>.<) (2021年6月17日 19時) (レス) id: dc07c220d6 (このIDを非表示/違反報告)
お酒 - 宇髄さんが見たいです(^^)少しエ○く…とかってできますかね? (2021年6月17日 18時) (レス) id: 48240712ac (このIDを非表示/違反報告)
楪日織(プロフ) - 吹雪さん» わっ……かりました。初書きになるので、遅いですし温かい目で見守ってください。 (2021年5月17日 20時) (レス) id: fd467e3021 (このIDを非表示/違反報告)
楪日織(プロフ) - むこぴさん» ありがとうございます! たぶん、絶対の時は三部作にする予定はなかったから伏線もほぼほぼないんですけど……笑 泣いていただけたなら嬉しいです。 (2021年5月17日 20時) (レス) id: fd467e3021 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さつむいこん x他1人 | 作成日時:2021年3月11日 18時