12.夕日坂 ページ13
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奇跡とも言える再会を果たして、僕は更にあの子に近づきたくてたまらなくなってしまった。
またAに会えたのは、
関東大会を1位通過した数日後のこと。
「…おはよ」
『おはよ、早いね』
「君もね。朝からやってるの?眠くない?」
目が冴えてしまい少し早めに部活へ行くと、いつもの坂道でトランペットを吹くあの子がいた。
住宅街から離れたこの学校なら、
朝から音を出しても一応迷惑にはならない。
でも流石に早すぎるだろ。
ただでさえ部活後も詰め込んでるって言うのに。
『全然。毎日こうだもん』
「…よくやるね、僕なら無理だな」
前世の僕なら出来たかもしれないけれど、
今世の僕にはそんな努力は積めない。
剣道は、前世の記憶があったから始めた。
憧れていたわけではない。持っているもので勝ちに行けると思っただけだったんだ。
この子は違う。
生まれ変わった人生で、新しいことを始めた。
記憶はなくとも潜むものはあるはずなのに、
それでも彼女は全く別のことを始めていたんだ。
「…そういうところ、似てるのかも」
『何か言った?』
「何も。せっかくだし聴かせてよ」
関東ブロックのコンクールを目前にした吹奏楽部には、2回目のコンクールメンバー選抜オーディションが迫っていた。
メンバー上限は55人、ソロはそのうち1人だけ。
Aは都コンクールのソロを勝ち取ったけれど、次はどうなるか分からないと言っていた。
『何回も聴いてるし、そろそろ飽きない?』
「ううん、そのメロディ好きなんだよね」
音楽には詳しくないけれど、
その音色が別格であることは素人の僕でも分かる。
中学の文化祭で聞いたトランペットよりも遥かに綺麗なその音色は、多くの人を魅了する。
勿論、僕のその1人だった。
『どこがいい?やっぱりソロかな』
「んー、ファンファーレも好きなんだよね」
『じゃあせっかくだし頭から通していい?』
「勿論」
彼女が息を吸う音が鋭く聞こえて、
それに間髪入れずに響き渡る金属音。
序盤から激しい指の動きがピストンを操り、
正確無比な音が飛び出してくる。
それだけじゃない。ただ正しいだけじゃない。
艶やかで丸みがあって、温かい音色。
彼女の音が、僕は大好きだった。
「やっぱりすごいね、綺麗だった」
『ソロをミスっちゃったし練習しないと…』
「じゃあ僕も部活行こうかな」
『あ、頑張ってね』
「そっちもね」
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指切り(物理) - 素敵な作品ありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ。いやぁホントに神すぎます! (2022年4月5日 10時) (レス) @page25 id: dfc5bee49e (このIDを非表示/違反報告)
さつむいこん(プロフ) - ぱらさん» 全部の言葉が光栄でしかないです、めっちゃ幸せです…!!こちらこそありがとうございます🙇♀️ (2021年11月11日 17時) (レス) @page24 id: 423a130570 (このIDを非表示/違反報告)
ぱら - 楽しく読ませて頂きました!一個一個の言葉が胸に染みました…!素晴らしい作品をありがとうございます!! (2021年11月8日 17時) (レス) id: 1cfc9a3f72 (このIDを非表示/違反報告)
さつむいこん(プロフ) - ミユモンさん» わあぁありがとうございます光栄です…っ!!のんびり更新ですがどうぞお付き合いください🙇🏻♀️ (2021年10月28日 23時) (レス) @page11 id: dc07c220d6 (このIDを非表示/違反報告)
ミユモン(プロフ) - 言葉の使い回しがすごく好みです…更新頑張ってください🙌✨ (2021年10月28日 20時) (レス) id: 2ad0dd50d0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さつむいこん | 作成日時:2021年10月7日 23時