私の隣 ページ5
途中で何回も「止まって！」って
声をあげてみたけど
紫耀は全く止まらず
走って走って
いつのまにか繋いだ手も
痛いくらいギュってつながれてる。
どんどん知らない道を進んで
いったいどこに向かってるのよ！
そんなに体力に自信ないし
もう足が絡まりそうだ。
「怖いよ、紫耀。ねぇ！止まって！」
チラッと私の顔を見て、やっと立ち止まった。
息を整えてる私を余裕な顔で見下ろす。
紫耀「ぷっ お前、めっちゃ必死な顔すんなよ。笑」
「はぁ、はぁ…だって…紫耀止まらないし！」
屈託なく笑う顔が憎たらしい。
「っ…だいたい、ここ…どこ？」
ピタっと笑うのをやめて
道の端っこまでスタスタ歩いてる。
紫耀「さぁ？わかんない！」
呑気ないつもの笑顔がこっち向いてる。
「帰る。ひとりにして。」
クルッと紫耀に背を向け、とりあえず来た道を戻ることにした。
少し後ろを紫耀は付いてくる。
紫耀「なぁ、A。」
私は黙って顔だけ声の方に向け、
なに？と言わんばかりに少し睨んだ。
紫耀「どこに向かってんの？」
……んー。
自分がとんでもなく方向音痴だってことは
16年間で思い知っている。
幼稚園で寄り道した帰りも
小学校の遠足で現地解散した時も
中学校の修学旅行終わった帰りも
紫耀が決まってとなりにいてくれた。
「家に帰るに決まってる！」
紫耀「さっきの曲がり角、通り過ぎたじゃん。」
足を止めて、引き返す。
それをまた黙って紫耀は付いてくる。
“連れて帰って”
って言えば紫耀はきっと嬉々として
先頭を歩いてくれるんだろうけど
ちょっと、その曲がり角ってどこ？？
しばらく歩いて、案の定迷宮に入り込んだ。
「紫耀…私、迷ったみたい。」
紫耀「おいおいおい、今気づいたのかよ！」
「ごめん、連れて帰ってもらっても…いいかな？」
ここぞとばかりに
大きなため息をわざとらしく吐いて
紫耀「ほら、行くぞ。」
あ。
紫耀の手あったかい。
春とはいえ、夕方に差し掛かると少し気温が下がっていた。
「あったか…」
紫耀にいつも連れて帰ってもらって
私は紫耀のお守り役のつもりだったけど
紫耀は私にずっとずっと
構ってくれてたんだ。
紫耀「Aは、俺の隣じゃ嫌なの？」
「え？」
また、おふざけで私が照れるとでも思ってる？
隣を見上げると
夕日に照らされた紫耀の顔が
少し赤いような気がしたんだ。
続く
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作者名：Satori | 作成日時：2018年7月3日 8時
