その顔見せて？ (ページ8)

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「どういう事ですか？AさんもAさんでしょ？」

「私の父親は野球選手の結城なの、知ってる…よね？」

すごく有名な野球選手で、野球をほとんど見ない悠人でさえも知っているはずだ。

「はい」

「中学まで私ね、野球やってたの。リトルでもシニアでもずっと。私3人兄弟の真ん中で、お兄ちゃんと弟がいるのね。お兄ちゃんが野球やってて、それに憧れて始めたんだ。でもね、どんなに上手くなっても学年が上がっても、一軍戦には出してもらえなかったの。そのうち、弟の方が試合に出るようになってきて。公式戦で勝っても負けても情けなくて。負けた時は自分ならこうするのに、自分ならもっと上手く出来るのにって。勝ってもどうして私は出られないんだろう？って思っててたんだ。それが嫌で、野球から離れたくて箱学に来たの。結城の子供が嫌でここに逃げて来たの。
悠人くんみたいな努力して周りを認めさせようとする人は、逃げて来た私なんて嫌でしょ？」

好きな人に嫌われることほど辛いことはないだろう。それなら、自分から嫌われそうな事を晒して仕舞えばいい。

「Aさんは強いですね。ずっとそんな環境で過ごしてたんですから。
オレはAさんが好きです。どんな風に育ってきたかは分かりませんが、今のAさんが好きです。もう一度言いますね、オレと付き合ってください」

悠人くんの顔はお面が付いていなくて、貼り付けたような笑顔でもない。自然にフワッと笑った顔だ。

きっと私はこの顔が見たかったんだ。