三十一日目 ページ31
「お兄ちゃんよぉ、俺腕折っちゃったかもしんね。おら、慰謝料出せよ」
「え？」
鬱が困ったように眉を下げているのを見て集られている、と直ぐに気がついたゾムは蛇のように素早い動きでその間に入った。
「おっさん、何やっとんの？」
「あ"？お前、コイツの友達？」
「せやけど」
フードの下から睨み付けるゾム。
相手は大人のため身長は負けているため見上げる形となる。
男は卑劣な笑いをして「正義のヒーロー気取りか？」と煽った。
「ヒーローちゃうけどな。俺どっちかっちゅうと悪役の方が好きやし」
「好みは聞いてねぇんだよクソガキ」
男の知人か、だんだん群がる男たち。
制服を着ている男子二人に対し大の大人が群がってる姿が気になるのか、野次馬が集まる。
「慰謝料くれれば手ぇ出さないんだぞ？」
「おっさん、それ恐喝罪っちゅう罪なんやで？知っとる？」
男は顔を真っ赤にさせ「クソガキっ、舐めくさってんじゃねぇぞ」と殴りかかってきた。
良いことではないが、野次馬の中に撮影している人がいる。
それも証拠になるだろうし、一応後で話聞くか、と思いながらその拳を流す。
男は空を切った拳で体を止められず隙だらけ。
そこを逃げようと鬱の腕を引くゾムだったが、距離はあけられたものの他の男たちによって逃げ道を失ってしまった。
「めんどくさいわ...くそかよ」
丁度その時、警察がやって来る。
誰か野次馬が連絡してくれたのだろう。
安心した瞬間、怒りが止まらなかった様子の男に頬を殴られる。
大人の本気の拳を受け身もとれずにまともに食らったせいで少し飛ぶゾム。
鬱は驚き声をあげ、野次馬も息を飲んだ。
「おいこら、ずらかるぞ」
男たちはそう言いながら警察のいない裏口から出ていってしまった。
「ゾム、大丈夫か？すまん、俺...！」
「大丈夫やって。体は無駄に強いし。」
頬を擦りながら上半身をあげるゾム。
ヒリヒリして熱いが、直ぐに収まるだろう。
「すまんなぁ、誘ったからにこんなことなってもうたわ」
「いや、僕が周り見ぃひんとうろちょろしとったんが悪いんや」
漸く警察が駆けつけてきた。
「大丈夫ですか...って、ゾム君と鬱君じゃん！」
驚いたように目を見開く男は見覚えがあった。
「ぺいんとさん」
それはロボロの従兄弟、ぺいんとだった。
「驚いたよ、君たち喧嘩？」
「ちゃいます」
そう言いながらぺいんとが差し出した手を取り立ち上がるゾム。
恐らく、怒られるのだろう。
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作者名：咲々姫 | 作成日時：2021年2月2日 16時
