8個 ページ8
次の日から私の生活は変わった。
いじめは当たり前。
私は決して強いとは言えないけど、心を消せば楽だった。
あのときみたいに、心を消して。
殺されそうでも無でいる。
それが一番楽だった。
下手に梓やいちごを出すと、心が苦しくなるのは分かっていたから。
不幸中の幸い、殴る、蹴る、物を隠される。
そのようなものばかりだったので親にバレずに済んでいる。
...しかし、そんなある日のことだった。
『...え？』
「だから、お父さんとお母さんは別れます。Aはお母さんの方に来るのよ？」
目の前に肩を並べた両親。
両親は顔を合わせない。
なんで、なんて馬鹿な発言はしない。
ただ、黙って頷いた。
父さんは何も話さずに珈琲を飲むだけ。
母さんは引っ越しの支度をするよう私に言った。
今日の夜、そして明日の朝。
それだけが家族の時間だと母さんは言った。
...シャオロンとも離れるのかな。
父さんと比べると母さんはあまり給料良くないから、高いところには住めないだろう。
安いところ...少なくとも此処より少し離れた場所に行くのだろう。
高校は大抵移動できないけど、母さんの人脈は意外と広いからコネで行くのかもしれない。
夜。
夕食後、早々に寝た母さんを確認してリビングへ向かう。
薄暗い中で父さんはビール缶をじっと見ていた。
『...父さん』
そう呼ぶとゆっくりだが、朧気な瞳で私を見てきた。
「...嗚呼、Aか」
力なく笑う父さん。
父さんは料理できなかった筈だし、生活も不安定になりそうだ。
「ごめん、ごめんなぁ...」
アルコールの力か、焦点の定まらない目から涙を流す。
「ごめん...こんな、父さんで...情けないよなぁ」
何がきっかけか、なんて知らない。
だからこそ、何に対して謝っているのかなんて分からない。
声を出さないでただ父さんを見ていると父さんは寝息を立てる。
何も言えずにリビングを後にする。
父さん、相当堪えたみたいだな。
母さんの部屋に静かに入ると普段父さんと寝ているからか隙間だらけのダブルベッドに一人で寝ていた。
顔には涙を流したのか、渇いていない水滴が見えた。
母さん、悲しいんだな。
何も生まない争いをしたのか。
何も言えない私に嫌気が差す。
『母さん、...ごめんね』
実は引っ越す、って聞いて、元の自分...Aが出てこれる、って喜んだんだ。
自分を偽らなくていいって、喜んでしまった。
愛した人を失うのは辛いって、知っていたのに。
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作者名：咲々姫 | 作成日時：2021年1月1日 0時
