年の瀬の悲劇 26 ページ34
ゆかサイド
午後、診察に来てくれた外科の先生を前に、ひたすら退院をお願いした。
こんな年末のみんなが忙しい時に、入院なんてしていられないって思ったから。
最初はもう1日いた方が良いって言っていた先生も、私のあまりのしつこさに結局は折れる形で許可してくれた。
もうそろそろ夕食の時間て時、ドアがノックされて、
『食事でーす！』
って、トレイを持ってきてくれたのは、なんと翔にぃで(笑)
「あ、翔にぃ！」
「ははっ、びっくりした？」
いたずらっ子の顔してる。
丁度、配膳カートが廊下にあったから、持ってきてくれたんだって。
「痛みはどう？」
「うん、大丈夫。今は薬が効いてるみたい。今日帰って良いって！」
「うん、カルテ見たから知ってる。無理言ったろ？」
バレてる(苦笑)
「そんなでも、ないよ？」
「ま、いいや。ゆかがそうしたいなら。
だけど痛みは急になくならないよ？それに何かと不便だし。利き手だから」
「うん、覚悟してる。でも、ここにいるより良いもん…」
思わず本音を言うと、翔にぃは「仕方ねぇな」って笑ってくれて。
そこへ、
「おつー！」
って、でっかい声で言いながらまーにぃは
入ってきた。
「おい、お前声でけぇわ！」
翔にぃに叱られて、ショボくれた大型犬みたいに(笑)
「帰れるんだってね、ゆか」
「うん！退院！」
「自主退院に近いけどね？」
「みたいだね？
で、このご飯はどうすんの？止めるの間に合わなかったみたいだけど…」
穴が開くほど見ながら言うまーちゃんに、笑いを堪えながら、
「私はいらなーい。良かったらどうぞ？」
って勧めてあげると、
「やった！」
って子どもみたいな笑顔を浮かべて、立ったまま食べ始めた。
「うわ、行儀悪っ！ま、いっぱい食っとけ。家は唐揚げかも知れねぇから(笑)」
翔にぃが悪い顔して言う。
「えっ、ウソ？マジで？」
2人がわちゃわちゃやっているのを笑って見ていると、急にズキンと腕に痛みが走って、思わず「うっ」って、声を上げてしまった。
と、すぐに
「ゆか大丈夫か？やっぱ体動かすと響くんだね？」
って、慌ててお箸をおいて体を支えてくれた。
「大丈夫、へーき…」
「出た！ゆかの平気。全然大丈夫じゃないときほど『へーき』って言うよな？」
って、図星を突かれた。
「もう1回、薬使おうか？
今使えば、また痛くなっても俺が寝る前に次のが使えるし」
って、言い出して結局またあの恥ずかしい処置を受けることになったの。
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作者名：虹
| 作成日時：2018年11月25日 15時
