年の瀬の悲劇 13 ページ21
翔サイド
『体温36,6℃、脈88、呼吸26、血圧90/53、SpO2,97』
部屋に響く看護師の声に耳を傾けながら、目の前で広げられたガウンに袖を通す。
バイタルの報告を終えた看護師は、
「相葉先生、グローブのサイズは？」
「あ、8で」
続けて俺を見るから、
「俺は7半で…」
答えながら、俺も清潔操作すんの？って疑問が浮かんだけど、それを確認するのも憚れて何も言わないまま流れに身を任せる。
「ん、ん〜ﾊｧﾊｧ」
スタッフの声が止めば、聞こえてくるのは機械音とゆかの辛そうな息づかい。
「痛いなーゆか。すぐ楽にしてやるからな…
ソセアタ、側管からいってくれる？生食50に1Aで。
ゆか、これから診察して、それから傷を縫うからね？診察が終わる頃には痛み止めもしっかり効いてくるし、ちゃんと麻酔もするから心配しないで？」
雅紀の声を聞いたゆかは痛みと不安でいっぱいだろうに、気丈にも目を開けコクンと力強く頷いた。
すぐにでも麻酔をかけて痛みから解放してやりたいだろうけど、そうはいかないんだな。
神経や腱が損傷していないかしっかり確認しておかないといけないから。
指1本1本を慎重に確認して、肘の動きや皮膚感覚も。
この辺の診察は雅紀の専門分野と言っても良いところ。
「ん、神経は大丈夫そう。
ゆかちょっとボーッとしてきた？眠くなったら寝てて良いからねー」
頭をサラッと撫でてあげ、グローブの包みを取った雅紀。
パリパリと乾いた音を立て、包みを開けながら、
「傷、できるだけ残さないようにするから…」
って、小さいけどしっかりした声で呟いた。
切ったのは肘の少し上。半袖を着れば当然見える場所だ。
「長くなるから、翔にぃが手伝ってね？」
その言葉に気遣い屋の雅紀らしさが出ていて、フッと口元だけで笑うと雅紀も一瞬微笑んだ。
「ゆか、今から麻酔するね？
最初の注射だけ頑張って？それだけ頑張ったら後は痛くないから、ね？」
安心させるようにゆっくりとした口調で説明し、清潔野にあるシリンジを手に取った。
今のところすることない俺は、ゆかの顔の前にしゃがみ目を合わせ、
「大丈夫。雅紀がキレイに治してくれるから。安心して眠ってな、ね？」
俺の言葉に素直に頷くと目を瞑ったゆか。
その目尻からツーっと涙が零れ落ちた。
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作者名：虹
| 作成日時：2018年11月25日 15時
