【ars】ステップファミリー 15 (ページ16)

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年の瀬の悲劇 8 ページ16

翔サイド

バスタブの中で脱力して、フワフワとした浮遊感を楽しんでいた俺の耳に、

『スタットコーーールっ！！！』

家の中で緊急招集なんてあり得ねぇだろ？って一瞬思ったけど、それが智にぃの声だったから余程のことだろうとバスルームから飛び出した。タオルで拭くこともせず、下着も付けずスウェットのズボンだけを何とか身につけ駆け出した。

ちょうど雅紀も駆け付けたところだったみたいで、キッチンに飛び込んで行く後ろ姿が見えた。

キッチンに入る直前、智にぃの『上腕動脈が切れてる』って声が聞こえて…

中に入ってまず目に飛び込んできたのは、拍動に合わせてドクドクと流れ出る血液。

ヤバイよ、これ…

雅紀にバッグを取りに行くよう指示して、俺はゆかの横に膝をついた。

サッと辺りを見回すと、今日使った大皿が割れて転がっていた。何かの拍子に皿が割れて、それで切ったんだろうと理解した。

傷を見ようにも出血が多くて良く見えない。

智にぃが上腕動脈の上位で圧迫してくれているのにこの出血量。早く止血しないと出血性ショックで取り返しのつかないことになり兼ねない。

そこに雅紀が戻ってきて、

「翔にぃ、持ってきたよ。何出す？」

って。

「滅菌ガーゼ！
雅紀はライン採って輸液ガンガン入れて。この出血量だと血圧下がるからっ」

滅菌ガーゼを受け取り、圧迫止血をしながら片手で探り当てたのは三角巾。

雅紀も少し冷静になれたのか、ゆかの足からラインを採ろうとしている。

俺はあっという間に真っ赤に染まって、吸収性をなくしつつあるガーゼの少し肩よりの位置に三角巾を巻き付け、食器棚の引き出しから割り箸を取り出し、結び目に通して捻り、即席の止血帯を作った。

ふと視線を感じて顔を上げるとそこには和と潤が顔を強ばらせて立ち尽くしていたから、

「智にぃ、ここは俺と雅紀に任せて？和と潤をお願い…」

と、智にぃに頼んだ。

ゆかは顔面蒼白で、額にはうっすら汗を浮かべて、苦痛に耐えている。

こんな時に一番頼りたいだろう相手に、

「ﾊｯﾊｯ、まーちゃん…
い、ぃよー、うぅっ…」

速い呼吸の合間に必死の形相で痛みを訴えている。

「痛いね。俺、ここにいるから…
頑張って？」

点滴をポンピングしながら、何とか安心させようと声を掛ける雅紀。

「雅紀、代わろう。俺より専門だろ雅紀の方が…」

パニック気味だったから、俺がイニシアティブを取ったけどもう大丈夫そうだし、どう考えても雅紀の方が適任だから。