年の瀬の悲劇 7 ページ15
雅紀サイド
デスクに向かって明日のオペに関する資料を広げ、頭が仕事モードに切り替わった頃、聞こえてきた叫び声。
"スタットコール"
病院でさえ、1度しか聞いた事のないワードに一気に緊張が走る。
しかもいつもほにゃってしてる智にぃの聞いたこともないような叫び声だったから…
ただ事じゃないと理解した俺は、家の中だというのに、全力で走って声のした方を目指した。
そしてキッチンで見たものは…
何の事故現場？って思うほどの鮮血。
「ゆかっ！」
「多分上腕動脈、切れてる。止血しないとまずい…」
智にぃが言い終わらないうちに、上半身裸の翔にぃが入って来て、
「雅紀、救急車！
それから俺の部屋からバッグ持ってきて！」
パニックになり掛けていた俺に指示を飛ばしてくれた翔にぃ。
そのお陰で俺は少し冷静になれて、ポケットにあったスマホを片手に階段を駆け上がった。
バッグを持って戻った時、テーブルの横で涙を溢す和と潤が目に入ったけど、声を掛ける余裕もない。
「翔にぃ、持ってきたよ。何出す？」
電話の合間に翔にぃに訊く。
「滅菌ガーゼ！
雅紀はライン採って輸液ガンガン入れて。この出血量だと血圧下がるっ」
震える手と口でガーゼのパックを破り、翔にぃの前に突き出す。
片手でそのガーゼ越しに傷を直接圧迫した翔にぃは、もう一方の手でバッグの中を漁ってる。
電話を漸く終えた俺は、ゆかのスカートを捲り上げ、意識を手元に集中させ、大伏在静脈を目掛けてサーフロー針を刺した。
内筒を抜きテープ1本で軽く固定をして、ルートを繋げて…
「ゆか、心配ないからね？寒いかもしれないけどじっとしててね」
軽く膝の辺りを撫でてあげてそう伝えると、同じことをもう片側の脚にも。
点滴パックのひとつを冷蔵庫に付いていたフックに掛け、もうひとつを両手で圧迫して体内へと送り込む。
その間に翔にぃは三角巾を使って止血を進めてくれていて。
「智にぃ、ここは俺と雅紀に任せて、和と潤をお願い…」
その言葉でリビング側のキッチンの入口を見ると、呆然と立ち尽くす2人の姿があった。
すぐに和と潤の横に行った智にぃは、
「大丈夫…
まーにぃと翔パパが診てくれてるから。和と潤は智パパと一緒に良い子してようね？」
いつも通り、ふにゃっと笑い掛けると2人の頭を首元に引き寄せ優しく撫でている。
2人を同時に抱き上げた智にぃを見届け、俺は再びゆかに視線を戻した。
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作者名：虹
| 作成日時：2018年11月25日 15時
