職場復帰(雅紀) 2 ページ28
雅紀サイド
院長室の前、俺はまた大きく息を吸って、ゆっくりと吐き、スーツのボタンをひとつだけかける。
背筋をピンと伸ばし、ノックをすると、
「入りなさい」
落ち着いた柔らかい声がした。
部屋の中に入ると、医局長が既にソファに座っていて、
「掛けなさい」
着席を促された。
「失礼します…」
緊張が頂点に達している。
そう感じた時、医局長が口を開いた。
「まあ、のんびりやりなさい。
院長にも今、許可をもらったけど、残業と当直は当面禁止。
先ずは外来と通常オペをしっかりやってくれ。
オペは当面やらなくていいって言ってやれたら良いのかも知れないが、それほど人数の多くない科だからな。
そこは頑張ってくれ…」
そう言って、俺を見る目はにぃたちと同じように温かいもので、俺はありがとうございますとただただ頭を下げる。
その後、院長からも、
『長く病院の中にいることだけが良い医者じゃない。今の自分にできる最大限の事をやってくれれば良いから』
と、言ってもらえて。
もうホントに頭を上げる事ができないくらい、恐縮した。
「では、院長、私どもはこれで失礼致します。朝からお邪魔しました…」
医局長の言葉を合図に立ち上がり、院長室を後にする。
医局へと向かう道すがら、
「院長も俺も理解してるつもりだから、気楽にやれば良い」
肩をポンと叩いて言ってくれた言葉が胸に染みた。
朝礼で「長期間ご迷惑をお掛けしました」と頭を下げた俺に、みんなが口々に
「気にすんな。お互い様だから」
って、言ってくれて。
俺は尽々人に恵まれてると思った。
にぃたちやこの職場の人たちの優しさに包まれて、今の俺はある。
緊張は皆の温かい言葉で解され、平常心へと戻っていった。
『何人か入院患者の引き継ぎするから、病棟に行くぞ？』
先輩から声を掛けられ、医局を出て並んで廊下を歩いていると、
『あ〜戻って来れたんだ…』
そう実感が湧いてきて、鼻の奥がツンとした。
バタバタとしている内にあっという間に、昼休憩になり、食堂に行くと翔にぃがいて、
「やっぱ白衣を着てる雅紀は格好いいな」
なんて言ってくるから、俺はどんな顔して良いか分かんなくなって、
「もう翔にぃ止めてよ！」
バシッと背中を叩いてやった(笑)
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作者名：虹
| 作成日時：2018年12月10日 22時
